史上最悪規模「カリフォルニア火災」のリアル 現地取材でわかった避難民たちの厳しい生活

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消防署は火災被害の状況を地図で示し、住民に情報提供(筆者撮影)

南カリフォルニアでは3500~4000人の消防隊員たちが24時間体制で消火活動に当たっていたが、丘や森林の多いマリブ地区では、急な坂道や細い山道を大型の消防車が通り抜けるのが難しく、消火活動もかなり難航していた。

「市から避難命令が出る1時間前には早めに自宅を出て避難したけれど、1本しかない道路が大渋滞していた。モクモクと煙が立ちこめる中、5時間かかって何とか脱出した」と語るのは、過去40年間マリブに住んで、数回の火災を経験したという女性のパットさんだ(名字は本人の希望で匿名)。

さらに自宅が全焼したジェニファー・ピエトロさんは、逃げる途中、海岸でラクダに似たリャマや馬が数頭走り回っているのを目撃したという。「家をなくしてパニックになり、泣きながら海岸沿いを運転していたら、ビーチを走る動物たちがいた。牧場などで飼われていて、火災で逃げ出したんだろうけど、煙の中を走る馬やリャマたちの光景があまりに幻想的できれいで、なぜか笑いがこみ上げてきた」と語る。

多数の火事場泥棒たちがマリブに出没

そんなカオスな状況下でも、すでに多数の火事場泥棒たちがマリブに出没していた。

「車両通行止めの道路に、自転車に乗ってバックパックを背負った男がいた。住民のIDは持っておらず、調べたら火事場泥棒であることが判明した」と消防隊のハスケット氏。

さらに避難民の1人はこう証言する。「強制避難命令が出てすぐ、地元のスーパーの近くに警察の検問所ができた。銃を持った警察官たちがいるので安心だけど、そこをこっそり突破しようとする火事場泥棒も多い。泥棒たちもきっと銃で武装しているはずだから、自宅周辺には火災とはまた別の緊張感が漂っている」。

また、避難命令をあえて無視して自宅にとどまり、自分たちで消火活動をしようとした住民もいた。彼らは、避難した友人たちに現場の状況の写真をメールで送っていた。

赤十字ボランティアとして避難民を支援するグラント・グレイブスさん。彼の87歳の母親が住む家は、ギリギリ避難区域外だったとのこと(筆者撮影)

逃げてきた避難民たちに「マスクをして灰を吸い込むのを避けて」「火災の影響のある地区の水道水は、念のために1分間煮沸してから飲むように」と呼びかけていたのは、赤十字でボランティアをしているグラント・グレイブスさんだ。

マリブで生まれ育ったという彼が、人生で最初に経験した火災は1970年代で、彼は当時4歳だったという。その後、6~7回は火災を経験し、その度に生き延びてきた。

「今回の火災が中でも最悪だ。今回はざっと100人以上の友人たちが家を失ったことになる。地元サーフショップのオーナーも店を失った。マリブはセレブ住民だけの地区のように思われているけれど、生まれた時からずっと何十年も住民だったという、自分のようなごく普通の人間も結構多い。何より住民たちの結束が固い土地なんだ」と語るグレイブスさん。

さらに「悲惨な出来事に遭えば、人間、パニックになって怒りが湧いてくるもの。いま避難シェルターでボランティアしているが、自分は身体も大きいし、赤十字のTシャツを着て任務に当たっている間は、多少は八つ当たりされても大丈夫。誰にも怒りをぶつけられない人々が、自分相手に多少は愚痴をぶつけて、彼らがちょっとでもガス抜きできるなら、それでいい」と彼は語る。

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