子育て世代の入居希望が絶えない賃貸の正体 希少性の追求で異彩を放つ旭化成ホームズ

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そのユニークな位置付けから、「ヘーベルヴィレッジ杉並井草」の月額家賃は13万4000円~17万9000円と、周辺の一般的な賃貸住宅より高額な家賃ながら、その希少なポジショニングで、現在(2018年11月)は満室となっている。

このほか、「プラスわん・プラスにゃん」では、共用のドッグランスペースなどの本格的なペット共生の仕様のほか、しつけ教室の開催などのサービスも展開し、ペットの飼育を通じた入居者交流も生まれているという。

旭化成ホームズが推し進めるコミュニティ賃貸の展開は、前述した「母力おぎくぼ」のように利便性があまり高くないエリアでも、長期安定的に高額な家賃収入を見込めるため、土地所有者の支持を集めている。

新設着工は3年ぶり減少

それは事業成績に表れている。同社の2018年度上期(4月~9月)における集合系(賃貸住宅)の受注は前年同期比10.2%増の534億円。ほかの賃貸住宅供給にかかわる事業者が苦戦する中で二ケタの成長だ。通期では前期比15.4%増の1243億円を計画している。

ただ、これは元々、旭化成ホームズは賃貸住宅事業においては後発で、同業他社に比べ事業規模がそれほど大きくなく、大都市圏での事業展開に限定していることから伸びしろがあったことも一因だ。

ところで、賃貸住宅市場は今年に入ってブレーキがかかっている。国土交通省が今年4月27日に発表した「建築着工統計調査報告」によると、2017年度には貸家(賃貸住宅)の新設着工は前年度比4.0%減の 41万355戸となり、3年ぶりに減少に転じた。

持家と分譲住宅を含む総着工戸数が同2.8%減になったのと比べても、貸家の下落幅は大きくなっている。これは相続税改正や歴史的な低金利、年金不安などを背景に成長を続けてきた賃貸住宅市場の潮目が大きく変わったから、との見方が一般的である。

シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営していたスマートデイズの経営破たんや、その背景となったスルガ銀行の不正融資の表面化。それに加え、レオパレス21による不良施工問題の発覚などによる、賃貸住宅供給をめぐる世論は厳しさが反映されたものだと考えられる。

しかも元々、少子高齢化による空き家問題、空室率上昇の懸念が強まっていた中での出来事である。読者の中にも資産・土地活用として、「賃貸住宅経営はリスクが高い」と認識されている方も多いのではないだろうか。

しかし、子育て向けやシニア向けの物件などはまだまだ数が少ないのが実情。上質で特徴のある物件、人々の困り事に柔軟に対応できる物件ならば、今後も一定の建築・入居ニーズがあり、新規供給が継続すると考えられそうだ。

逆にいえば、他物件との特別な差別ポイントがない一般的なワンルームタイプなど新規物件は、築後短い期間で競争力を失う可能性があるため、非常に高いリスクがあると見るべきだ。このことは今後、賃貸経営を考える方には基本認識としてほしい。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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