トラフグ養殖業者に差し込んだ光明 11月29日を「いいフグの日」にしたワケ
今年7月、日本記念日協会で新たな記念日が認定された。11月29日、その名も「いいフグの日」だ。
これは魚類の養殖業者からなる全国海水養魚協会のトラフグ養殖部会が申請したもの。フグの中でもトラフグは高級魚にあたる。「11月は、養殖場で2年間かけてじっくりと育ててきた新物の養殖トラフグ出荷が本格化する月」(海水養魚協会)というが、なぜ、記念日まで設けたのか。
トラフグ養殖は正念場
実はいま、日本のトラフグ養殖は正念場を迎えている。1990年代後半のピーク時、養殖フグ類の生産量は6000トンほどあったものの、その後はじりじりと縮小が続いた。農林水産省によると、2011年の養殖フグ類の国内生産量は3742トンと4割近く減少。業界ではピーク時に600近くあった養殖業者が半減したといわれる。
フグの中でもトラフグは生産量が少ない高級魚だが、出荷価格は低迷が続いている。大きな要因は、10年以上前から安価な中国産が出回るようになったこと。また、国内では魚介類の消費量が年々減っているうえ、08年のリーマンショックによる不況のあおりで、高級魚が敬遠される傾向が強まったことも響いた。
複数の要因が重なり、90年代後半に1キロあたり5000円台だった卸売価格が、しばしば2500~3000円まで下落するようになっている。淡路島でトラフグ養殖を営む若男水産の前田若男社長は、「とにかく売り先を確保しようと、養殖業者が安値で出荷するため、単価の下落に拍車がかかっている」と嘆く。
相場の下落は養殖業者にはきわめて厳しい。トラフグの生産コストはブリやマダイに比べて3~5倍ほど高く、1キロあたり2000円ほどかかる。
トラフグは健康状態が変わりやすく、餌の量をこまめに調整しなければならない。近くにいるトラフグ同士で噛み合いをすることもあり、年に数回は人の手で歯を切る「歯切り」も必要だ。コストを占める多くは餌代だが、人件費も小さくはない。
水温が低いとエサを食べなくなって死ぬこともある。かといって、エサをやり過ぎると動きが鈍くなり、養殖設備で皮膚の表面が傷ついてしまう。とにかくデリケートな魚なので、「歩留まり(生き残るトラフグの数)によって、原価率が大きく変動する」(若男水産の前田社長)わけだ。
技術の進歩で「味」が向上
一方、養殖の技術はこの10年で大きく進歩した。近畿大学農学部・水産経済学研究室の有路昌彦准教授は、トラフグの養殖技術を「クロマグロと並び、わが国を代表する最先端の養殖技術の結晶」と評価する。
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