情報公開制度は誰もが使える身近な「武器」だ 毎日新聞記者が目指す「協働」ジャーナリズム

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石原氏は日程表に「庁外」とだけ書いて、都庁の外で何をしているのかを書いてない日が多くありました。公人なのに自分の行動記録をオープンにしてないこと自体がおかしいわけです。

内閣法制局のケースも同じです。内閣法制局は「集団的自衛権の行使は憲法違反」と言い続けていたのを変えた。あれだけ根幹的な憲法解釈の変更にもかかわらず、そのプロセスが記録されていないこと自体が問題ではないか。

公文書管理法を読んでみると、重要な政策決定のプロセスは記録せよと書いてある。公文書管理法に違反しているのではという観点も浮かんで、ニュースだと思いました。

読者とのやり取りから生まれた「特報」

――続報を出していくなかで、一般市民からの情報提供もありました。

富山県に住んでいる吉田憲子さんから、「内閣法制局から変な文書を開示された」と地元支局を通じて連絡がありました。吉田さんが請求した法制局の公文書「公文件名簿」に記された安保関連法案の決裁日が「5月0日」という不可解な記述になっていました。自分も同じ文書について情報公開請求して取材を続けた結果、「安保法決裁『5月0日』内閣法制局 ずさん記載」という1面トップの記事になりました。

吉田さんは研究者でも市民団体で調査をしていた方でもありません。まったく1人で自分の興味関心のあることについて、20年以上情報公開請求を続けてきた方です。

新聞記者が情報公開請求を使って、わかったこと、わからなかったことを書くことで、それに触発される人が出てきて逆に情報を寄せてくれる――そんなインタラクティブな広がりができたらと思っていました。そのためにオープンにできる生のデータや情報公開で取得した文書を毎日新聞のウェブサイトに載せてきました。

日下部聡(くさかべ さとし)/1993年、筑波大学第三学群国際関係学類を卒業し、毎日新聞に入社。浦和(現・さいたま)支局、サンデー毎日編集部、東京本社社会部などに所属。埼玉県警、警視庁捜査1課、国会、調査報道などを担当。近年は「情報と自由」というテーマへの関心を深め、「『憲法解釈変更の経緯 公文書に残さず』など内閣法制局をめぐる一連の報道」で2016年、日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞を受賞。2016年10月~2017年7月、オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所客員研究員。現在は編集編成局総合デジタル取材センター副部長(撮影:尾形文繁)

それを読者の皆さんと共有して、独自に調べて、またこちらにフィードバックしてくれれば新しいニュースができていかないかと頭では考えてはいましたが、本当にこういうことがあるのかと驚きました。

――しかし、現状では「情報公開請求」はあまり縁がないと思っている人が多いかと思います。

情報公開請求は誰にでもできることで、手続きは案外簡単です。たとえば自分の家の隣に何か施設が建設されるとなったときに、どういう経緯でできるようになったのか。子どもの学校の耐震工事がどこまで進んでいるのか、とかでもいい。知りたいと思ったら、それが公共施設ならば役所に請求すれば、いろんな公文書が出てくるでしょう。

民間マンションでも、建築計画概要書とかデベロッパーが役所に提出義務のある文書は閲覧できたり、情報公開請求できたりします。

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