来年の年金給付が「増える」ことの代償は何か 社会保障費は5000億円超も拡大する可能性

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年金支給額は、消費者物価指数の動向と現役世代の名目手取り賃金の変動と、マクロ経済スライドを加味して、前年度より増やすか減らすかを決める。今のところ、消費者物価指数は、今年10月時点で対前年同月比約1%の上昇となっている。計算の詳細は割愛するが、物価が上がり、賃金も上がると、年金支給額は増える。特に、物価が上がり、賃金も上がると、マクロ経済スライドが発動され、物価や賃金が上がったほどには、年金支給額は上がらない(減額される)仕組みとなっている。それでも、物価や賃金の動向がこの調子で続けば、マクロ経済スライドの発動で減らされても、2019年度の年金支給額は、2018年度の支給額より増える可能性が出てきた。

年金給付が増えると、社会保障費は当然ながら増える。2016年度から2018年度までの3年間では、前掲のように年金支給額は、(意図的でなく物価・賃金動向に依存して)ほぼ据え置かれていた。その年金給付の据え置きを含んで、国の社会保障費は年平均5000億円の増加だった。

医療や介護で給付抑制や自己負担増が、来年度予算でなかなか見込めない中で、年金給付が増える。となると、来年度予算での国の社会保障費は、5000億円を超える増加になる可能性が出てきた。これは、第2次安倍内閣始まって以来最大の増加になるかもしれない(2013~2015年度も3年間で1.5兆円程度の増加だった)。

ただでさえ、現役世代の社会保険料が毎年のように上がり、おまけに「妊婦加算」も疑問視されている。「妊婦加算」とは、妊娠中の女性にだけ医療機関を受診した際に追加の自己負担が課される仕組みで、2018年度から導入された。それでいて、高齢者の医療費の自己負担は手付かず、ということでよいのだろうか。せめて経済力のある高齢者に、もう少し自己負担をお願いするなどできれば、相対的に現役世代の負担は軽くなる。

現役世代への負担のしわ寄せでいいか

加えて、消費増税による増収分を活用して、低所得高齢者には、介護保険料をさらに軽減したり、年金給付の追加増額(年金生活者支援給付金)を行うことにしている。

前掲のように、年金給付が来年増額されるとなれば、低所得高齢者の生活環境も改善すると見込まれる。ならば、極めて例外的に設けられている低所得の後期高齢者医療の保険料(均等割)の軽減特例(9割減や8.5割減)ぐらいは、廃止しても支障はないはずだ。この軽減特例の存廃は、今年末までに決着をつけることとなっている。

社会保障費の増加を抑えられないと、現役世代に負担のしわ寄せがくる仕組みとなっているわが国の制度を、早期にどう改めるが、いま問われているのだ。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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