来年の年金給付が「増える」ことの代償は何か 社会保障費は5000億円超も拡大する可能性

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しかし、数値目標は示されなかったが、「骨太方針2018」には、社会保障費について、「実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す方針とされていること、経済・物価動向等を踏まえ、2019年度以降、その方針を2021年度まで継続する」と記された。

その文言にある「高齢化による増加分」とは、人口構造の変化に伴う変動分および年金スライド分の2つの部分から成る。そして、人口構造の変化に伴う変動分とは、当該年度における高齢者数の伸びの見込みを踏まえた増加分を意味する。年金スライド分とは、公的年金の給付を社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて自動的に調整する仕組み(マクロ経済スライド)を発動することを含めた、年金給付の増加分を意味する。

こう見ると、社会保障費について数値目標は明記されなかったが、数値以上に詳しい日本語で社会保障費の伸びを抑える意図が見え隠れする。

2019年度予算に向けて、厚生労働省は、社会保障費を前年度比6000億円増の要求をしている。6000億円の増加は、2018年度までの3年間の増加(年平均5000億円)よりも多い。多めに予算要求してよいことにしつつ、政策効果や優先度が低い社会保障予算を削減することで、最終的な社会保障費の増加を抑える方針である。社会保障費の増加を抑えるには、社会保障給付自体を削減する部分と、医療や介護の自己負担を増やすことによって税財源で賄う給付を抑える部分とがある。

75歳以上の医療費の自己負担を引き上げ?

政府も検討の俎上に乗せ、世代間の格差是正の観点からも重要視されているものに、75歳以上の医療費の自己負担割合の引き上げがある。2018年度現在、医療費の自己負担割合は、原則として、69歳以下は3割、70歳から74歳までは2割、75歳以上が「1割」である。2019年に75歳になる高齢者は、今74歳で2割負担である。2019年に75歳になる高齢者から順次、自己負担割合を「2割」のままにするという案が出されている。

同じ所得水準で、同じ病気になって医療費がかかっても、現役世代だと3割負担、75歳以上だと1割負担である。年齢だけで負担率が決まる仕組みに、現役世代や経済界からも異議が出ていて、負担割合の改革に賛同する声は大きい。

ところが、2019年夏には、参議院選挙がある。特に、投票率が高い高齢者は、年金給付や、医療や介護の給付や自己負担がどうなるかに関心が集まる。給付そのものを減らすことも嫌がるし、自己負担を増やすことも嫌がる。そうなると、参議院選挙対策として、2019年度予算案には、社会保障の給付減も自己負担増も、厳しいものは入れられない。官邸周辺からは、「負担増」は禁句だという話すら漏れ聞こえる。

この調子では、6000億円増の予算要求から、過去3年間並の5000億円の増に抑えるのは、かなり難しい。

そのうえ、来年の年金給付は、増額になる可能性が出てきた。このところ、年金支給額はほぼ据え置かれてきた。2016年度は据え置き(増減ゼロ)、2017年度は0.1%の引き下げ、2018年度は据え置きだった。

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