《介護・医療危機》認知症悪化、入院困難…。厳しさ増す高齢者の生活

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【Bさんの場合】女性・91歳

独り暮らしを続けてきたが、5年前に東京都内在住の娘夫婦の自宅に転居。現在は都内の病院に入院中だが、病院の病床転換に伴い、転院を求められている。慢性腎不全で入院しながら人工透析を続けている。

東京都内に住む川田真紀子さん(仮名、57)が、実母の民子さん(仮名、91)を山梨県の実家から自宅に呼び寄せたのは5年前。真紀子さんは10年前から、月2回の割合で民子さんの遠距離介護を続けていたが、民子さんが腎臓病の悪化から独居での生活が困難になり、自宅に引き取ることを決意した。

5年前の民子さんは自分で歩くことができた。が、転倒による骨折をきっかけに都内の病院に入院。以来、入院先を転々とした。そして現在の病院にリハビリテーションを兼ねて今年2月に入院した。慢性腎不全を患う民子さんは、現在、週3回の人工透析を続けている。

その民子さんおよび真紀子さん夫妻を激震が襲ったのは、6月のことだった。入院先の病院が、民子さんが入院している医療保険適用の療養病棟(以下、医療療養病棟)を、11月1日付で回復期リハビリテーション病棟に転換する方針を決めたからだ。回復期リハビリ病棟は、民子さんのような長期入院の患者を受け入れることは診療報酬の制約からできない。そのため、真紀子さんは再び転院を迫られることになった。

回復期リハビリ病棟への転換は、病院にとっても苦渋の選択だった。07年2月に改築オープンした同病院は、3階部分の55床を医療療養病棟としてスタートさせた。だが、06年4月の診療報酬改定により、医療療養病棟では医療の必要度の高い寝たきり患者だけを集めなければ、採算ラインに乗らないことが判明。同病院はいったん医療療養病棟を開設したものの、同じ問題に直面した。

「当病院は、地域住民の方々がいつでも入院できる、在宅との循環型の病院として、寄付を集めて改築オープンした経緯がある。都内全域から、重症の長期入院が必要な患者さんばかり集めて入院させる運営の仕方では、地域の皆さんの理解を得ることができないと考えた。長期入院の方々にはやむなく転院を求めざるをえなかった」(同病院の院長)。

だが、民子さんの転院先探しは難航を極めた。人工透析施設のある長期療養型の病院が都内では少ないことがわかった。候補先が見つかっても、高額の費用がかかる個室しか空いていなかったり、4人部屋でも差額ベッド代が必要だったりした。

真紀子さんの夫の哲也さん(仮名、62)は、勤務先の会社を退職後、パートで働いてきたが、来年には仕事がなくなる。自宅のローンが10年残っているが、退職金がほとんどなかったうえに年金も多くないため、母親のために入院費を多く費やすことができない。新たな職探しも必要だ。また、真紀子さんも週4日、パートで働いているが、持病があり、入退院を繰り返していた時期もある。そのため、民子さんを自宅で介護することは困難だという。

6月以来、民子さんは病院のソーシャルワーカーとともに、転院先探しを続けてきた。しかし、入院費などの条件が折り合わず、現在のところ、転院先は見つかっていない。

10月中旬、民子さんは2階の一般病棟に移った。当面は一般病棟に入院しながら、真紀子さんが転院先探しの努力を続けることになった。

高齢化が進む日本では、人工透析を必要とする患者が増え続けている。しかし、透析を受けつつ、長期入院が可能な病院は少ないのが実情だ。従来、受け皿となってきた療養型病院は、国の政策転換により、重度の患者だけを集める医療療養病棟への切り替えか、医師の配置が少ない老人保健施設への転換を求められている。その反面、新たに療養型の病院を開設することは困難だ。

老健施設や特別養護老人ホームに入所しながら、近隣の病院の透析施設に通うことができれば、必ずしも病院に長期入院する必要はない。しかし、そうした仕組みがほとんど存在しないのが実情だ。

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