「現地のパートナーにお任せ」の限界
東南アジアでは、「SHOGAKUKAN」の知名度はまだ低いが、同社が出版してきた作品のタイトルはすでに幅広い世代で知られている。「ドラえもん」はその代表格で、二十数年ほど前からインドネシアやタイでは累計で500万部、ベトナムでは1200万部近くも売れてきた。「名探偵コナン」も、今でも新作が出続けていることもあり、若い世代も含めて人気がある。
さらにはこんな逸話も。ベトナムでは小学館がライセンス出版を行うまで、国営の出版社キムドンが許諾を得ずに販売を行っていた。これを知った小学館は、それまでに著者の藤子・F・不二雄氏が得るはずであった印税についてキムドン社と協議。結果、そのおカネで「ドラえもん基金」を設立し、学校に行けない子どもたちのための奨学金として活用することに。この基金は今でも続いている。
同社の作品はすでに東南アジアで浸透しているにもかかわらず、なぜ今、拠点としての自社を設立する必要があったのだろうか。小学館アジア マネージングダイレクターの加冶屋文祥氏は、現地出版社をパートナーとしたライセンス出版というこれまでのやり方に、ビジネスとしての限界を感じたという。
たとえば、インドネシアではこれまで全国紙Kompasで知られるコンパスグラメディアと、その書籍出版部門のエレックスメディアをパートナーとしてライセンス出版を行ってきた。小学館が権利を所有する作品をインドネシア語に翻訳して、売り上げのうちの一定の割合を作家に返すというやり方だ。しかしこれでは、なかなか大きなビジネスにはならないそうだ。
さらに、インドネシアの状況に関する情報共有や、売れそうな作品の提案などはつねにパートナーからの一方通行で、日本にいる小学館は受け身の状態。これでは、その国や読者のこと、宗教や社会的背景、その国のタブーなどをいつまで経っても理解できず、ノウハウが蓄積されていかない。このままの態勢では、新しいビジネスの可能性にも気づけないままだ、という危機感があった。
書店・読者への「直販」から始まる事業拡大
そこで、これまで同様、パートナーとの協働も続ける一方、独自の事業も展開することにシフト。そのメインが、日本にある作品を現地出版社を通さず書店と読者へ「直販」すること。そして、現地出版社がカバーしきれない作品のライセンスを生かした「商品化・映像化」である。
特に注力していく作品ジャンルが3つ、「恐竜図鑑」「学習マンガ」「コミック」だ。実は今、東南アジアの中心 シンガポールでは“恐竜”が熱い。今年10月から来年2月まで同国のサイエンスセンターで恐竜展が開催されており、来年には日本人にも人気のホテル マリーナ・ベイ・サンズにほど近い博物館でも開催が予定されているという。
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