EU離脱で英国メイ首相の挑む「最後の戦い」 EUと合意も、議会承認までは市場も不安定に
今回の離脱協定案は穏健派にはポジティブに、強硬派にはネガティブなものである。事態が複雑に入り組んでいるが、現状を理解するためには「英国が関税同盟から完全離脱すること」と「北アイルランドとアイルランド共和国との間にハードボーダーを“設置しない”こと」が両立しないという、本件にかかわる最も重要な論点を知っておく必要がある。今さらではあるが、この点を改めて確認しておきたい。ハードボーダーとは税関検査や入国管理などの物理的な国境設備である。
英国が関税同盟から完全離脱すれば当然、北アイルランドもEU加盟国ではなくなる。これによりEU加盟国のアイルランドと、それと地続きとなっている北アイルランドの関係性が強制的に変わることになる。周知のとおり、北アイルランドではアイルランド併合を求めるカトリック系、英国統治を望むプロテスタント系の紛争が長きにわたって続き、1998年に英国、アイルランド、北アイルランドによる和平合意の下、国境管理が撤廃されたという歴史がある。武力衝突も収束し、自由なヒト・モノの移動というEUの恩恵を享受するようになった。
しかし、ハードボーダー復活となれば、同問題を蒸し返すことになりかねない。英国の関税同盟(EU)からの完全離脱を実現したうえで、北アイルランドの英国帰属を前提とし、アイルランドと北アイルランドの国境を設けない、というのは文字どおり無理筋であり、これをいかに軟着陸させるかをめぐって交渉が長引いてきたのである。実際のところ、これは「右を向きながら左を向け」と言っているようなものであろう。
ハードボーダー問題は先送りしたにすぎない
アイルランド国境問題は、もはや2019年3月29日の離脱日における合意までにはまとまらないとして、棚上げされている。ハードボーダー復活を回避したいのは英国もEUも同じなので、次の問題意識として必然的に浮上してくるのが、離脱後に設定されている2020年12月末までの移行期間において英国とEUの「将来の関係(すなわち自由貿易協定)」が成立しなかった場合はどうするか、である。
この点、今回合意した離脱協定では英国とEUの「将来の関係」が固まるまでは北アイルランドを含む英国全土が関税同盟に残留するという方針が想定されている。言い換えれば、2020年12月末までの移行期間で交渉が妥結していなくても、2021年1月に突如、関係性が断絶するという事態(いわゆるクリフエッジ)に至ることはない。
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