何カ月にもわたる繊細かつ困難な交渉を経て、北アイルランドの2大政治勢力(一方はカトリック系、もう一方はプロテスタント系)がベルファスト合意に署名し、30年以上に及ぶ流血と暴力が終結したのは、ちょうど20年前のことだ。だが、同合意と、それによって可能となった和平が今、脅威にさらされている。
ベルファスト合意では、住民の合意を得ることなく北アイルランドの地位変更を行いはしないこととされ、その限りにおいて北アイルランドの住民は英国、アイルランド、あるいはその両方の国籍を取得できるようになった。合意下では、和平を支援するべく、紛争当事者となったカトリックとプロテスタントの各勢力が共同運営する自治政府が作られた。
北アイルランド自治政府崩壊で問題が浮上
英国とアイルランドが共に欧州連合(EU)加盟国であったことから、合意成立後の手続きはスムーズに進んだ。アイルランド共和国と、英国の一部である北アイルランドとを隔てる国境は、単に地図上の線にすぎなかった。壁もなければ、税関も存在せず、どこまでがどちらの領土かを示す標章もない。モノもヒトも国境のあちら側とこちら側を自由に移動できた。
実際、欧州の仲間として(欧州大陸の西で隣り合う島国同士であることは言うまでもない)、両国は分かちがたく結び付いている。英国のイングランド、ウェールズ、スコットランドには、アイルランド人の祖父母を持つ住民が500万人以上いる。過去20年にわたって、両国はベルファスト合意による平和の果実を享受してきた。
だが、ここに来て深刻な問題が浮上している。北アイルランドの自治政府が崩壊してしまい、英国政府も自治政府の再建を支援できる立場にはないからだ。昨年の総選挙で英国のテリーザ・メイ首相は、自らの率いる保守党が下院単独過半数割れとなる大失態を演じた。
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