米朝高官協議ブッチした北朝鮮の「腹づもり」 アメリカを脅しにかかっているのか

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北朝鮮は11月初頭、アメリカが制裁緩和に応じなければ、核開発が復活し、経済建設と核開発を同時に進める「並進路線」がよみがえることになるかもしれない、という記事を国営メディアで流し、アメリカを脅している。これも交渉を有利に運ぼうとして、北朝鮮がよく使ってくる手だ。北朝鮮が現状に不満を抱いていることを、アメリカと韓国の政府に伝える目的もある。

では、予定どおりに米朝高官協議が行われていたとしたら、アメリカは北朝鮮にどんな譲歩を差し出すことになったのだろうか。また、これによってアメリカは北朝鮮から、反対にどのような譲歩を引き出すことができたのか。

アメリカは6月にシンガポールで行われた米朝首脳会談によって、すでに象徴的な成果は手にしている。米朝の対立の核心にあるのは核問題だが、非核化を実現するには長期にわたる本格的な取り組みが必要となる。しかし、6月の米朝首脳会談以降――もっと言えば、4月に板門店で開催された南北首脳会談以降――非核化は実質的な意味では、まるで進展していない。

交渉は北朝鮮のルールで進む?

こうした状況で再び首脳会談を開いて、またもや象徴的な成果を演出してみせても、アメリカにはメリットがなかった。非核化や制裁緩和、終戦宣言についても、おそらくアメリカが譲歩することはなかっただろう。一方、北朝鮮にしてみれば、アメリカが譲歩を差し出す前に、核施設や核兵器の保有量を明らかにしたリストとその廃棄計画を手渡すなど論外だったはずだ。

つまり、アメリカと北朝鮮には、どちらにも譲歩する意思がない。であれば、11月8日の高官協議が流れたのも特段、驚くようなことではなかった。それに、会談がドタキャンされたからといって、アメリカ政府の分がそれほど悪くなったわけでもない。北朝鮮が現在でも核・ミサイル実験を中止していることを考えれば、一部の人々が主張しているように、以前に比べたら「より大きな平和」が達成されているということもできる。

高官協議がキャンセル・延期されたのは、実はアメリカにとってそれほど悪いことではなかったのかもしれない。実際に高官協議を行って交渉が決裂したり、北朝鮮の術中にはまって盲点を突かれたりするようなことでもあれば、2度目の米朝首脳会談は――仮に実現すれば、の話だが――またしても金正恩委員長の思うつぼになるだけだった可能性がある。

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