普通の6人家族が「テロリスト」になった事情 世界中で増える「一匹狼型テロ」の恐怖

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海外出征して戻った青年は、そのまま地下の伝道者になって、まず自分の家族全員を密かに洗脳した。それを世間に気づかれないようにする知恵も、IS支部はスリーパーたちに授けていた。

両親が3着の自爆ジャケットを用意し、母親と、12歳の娘、9歳の娘がそれぞれ着用した。母親が9歳の娘の自爆ジャケットに点火したのち、自身にも点火したのが目撃されている。IS崩れの父親は爆弾を搭載した自動車を操縦。19歳と16歳の息子2人も、めいめい爆装オートバイにまたがって自爆して果てた。3つの教会では信者7人が殺され、2005年にバリ島で自動車爆弾によって23人が殺されて以来の多数殺戮事件となった。

日本もひとごとではない

すぐ次の日、別の一家5人がスラバヤ市の警察検問所を自爆特攻襲撃。5人のうち4人が射殺されているが、爆発から偶然に生き残った1人は8歳であった。

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シリアやイラクやナイジェリアでは、もはやこういう事例は珍しくもない。しかしインドネシアでは初めてだった。IS帰りは、いかにも常軌を逸しているのだ。

インドネシアの特別警察隊は、2015年および2016年のクリスマス前の一斉捜索(ジャワ島とスマトラ島)でかなりのテロリストを捕殺し、爆弾類も押収していた。そこでテロリストの側では戦法を変え、わざとクリスマスシーズンを外して本格テロを計画するようになったと言われる。

しかし、2018年5月のテロは、IS本部からの指令ではない。そしてこれはインドネシアに限ったことではない。世界各地の自称IS支部やアルカイダ支部が、めいめいに工夫してテロ技法をローカルに巧妙化させつつあるのだ。

もちろん、日本には日本特有の社会風土があり、これとまったく同じようなテロが起きるかどうかはわからない。だが、実行犯の特定が難しい、微温的・狡猾なタイプのテロが、これからの日本で最も警戒を要するものになる可能性は高い。想像したこともない「風変わりなテロ」を、できるだけ前もっていくつも検討しておけば、ある日、尋常でなく悪い事態が現実に突発しても、あなたの心はそれに屈せず、持ちこたえられるだろう。

兵頭 二十八 作家、評論家

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ひょうどう にそはち / Nisohachi Hyodo

1960年、長野市生まれ。陸上自衛隊北部方面隊に2年間勤務した後、1984年、神奈川大学外国語学部英語英文科に入学。1988年、東京工業大学大学院理工学研究科社会工学専攻博士前期過程に入学、1990年、同大学院修了。著書に『東京と神戸に核ミサイルが落ちたとき所沢と大阪はどうなる』など。

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