ワタルさんが取材のために持参してくれた「職務経歴書」には、就労と就労の間に、「病気療養のため退社」という文言が散見された。
病気で会社を休むと、程なくして上司から連絡が来て、こう言われるのだという。「治療に専念したほうがいいんじゃない?」「休職できる期間は決まっているから」――。表現こそまちまちだが、要は「辞めてくれないか」ということだ。
ハローワークの窓口でも病気への理解は乏しい
ワタルさんは、世間はクローン病への理解が乏しい、という。ハローワークの窓口で「元気そうに見えますけど、なんで辞められたんですか?」「働く意思はあるんですか?」などと聞かれたこともあった。同じ病気を患う知り合いの中には、会社の面接時、「その病気はうつるんですか?」と尋ねられた人もいたという。
また、普段から、難病や人工関節といった、外からはわかりづらい障害があることを伝えるための「ヘルプマーク」というバッジを身に着けているが、電車内などで席を譲られたことは一度もない。赤地に白色の十字とハートのデザインのバッジは、全国の自治体で普及が進む一方で、認知度は低いという。
クローン病というだけでは、障害者手帳がもらえず、当初は障害者雇用枠での就業支援も受けられなかったこと。人工肛門の造設後は、障害者手帳4級となったものの、障害年金は支給の対象外であること。医療費助成はあるが、収入があるときは毎月5000~1万円ほど自己負担しなくてはならないこと。細切れ雇用なので基本、厚生年金に入ることはできないこと――。
医療や福祉制度への不満を上げればきりがない。一方で、ワタルさんにとって切実な希望は「働き続けたい」。これに尽きるという。
寛解期には普通に働くことができる。にもかかわらず、再燃するたびにキャリアや人間関係を断ち切られ、再び職探しを強いられる――。「いつ体調が悪化するのか、いつも不安でたまらない」とワタルさんは言う。
風疹が流行している、という理由で、ワタルさんは話をするときもマスクをつけたままだった。このため、その声は少し聞き取りづらかった。それでも、ぼそぼそとした口調で懸命にこう訴えてくるのだ。
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