難病を宣告された41歳男性が陥った貧困危機 病気で会社を休むと「退職」をうながされる

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「憲法は、勤労は義務だっていってます。共生社会、バリアフリーという言葉だってありますよね。『辞めてくれ』と言われるのは、もううんざりなんです。どうして、誰も『どうしたら働き続けられる?』と聞いてくれないのか。

今まで、欲しいものも、やりたいことも、家族を持つことも、たくさんのことをあきらめてきました。これじゃあ何のために生きているのかわからない。やりがいのある仕事を続けたい、ただそれだけなんです」

話を聞く中で、ワタルさんは、何度も自分のことを「員数外」といった。半人前、存在価値のない人間という意味だ。「社会から見捨てられていると感じます」という。

働き続けるには、無理をするしかない

ワタルさんは、今夏の退職勧奨を受け入れたのだろうか。

このときの勤務先は、障害がある人の就労にも力を入れているという、民間の人材紹介会社を通して見つけた仕事で、法律に基づく障害者雇用枠での採用だった。難病治療にも理解があると思っていたのに、退職勧奨を受けたのは、勤続からわずか1年ほど、休職から2カ月を過ぎたころのことだった。

毎月の手取り額は約19万円。両親の持ち家に同居しているワタルさんにとっては、何とか暮らしていける水準である。一方で、障害者雇用にはさまざまな助成制度もあるので、会社側の負担はさほど大きくないはずだと、ワタルさんは言う。

結局、ワタルさんは復職を希望、幸い産業医からの許可も出た。しかし、体調が完全に回復する前に復帰したので、朝晩の通勤ラッシュが、これまでになく体にこたえる。また、復職後は、上司から残業を求められても、断らないようにしているという。

「休職期間は通算5カ月と言われたので、できるだけ残しておきたかったんです。会社の評価が気になるので、残業も断れません。(再燃期の)疲れやすさは、この病気になった人でないとわからないと思うのですが、最近は完全にオーバーワークです。でも、働き続けるには、無理をするしかない」

ワタルさんの雇用は、首の皮一枚でつながったにすぎない。再燃を繰り返すクローン病の特徴を考えると、近い将来、休職期間切れで自然退職となる可能性は大いにある。

ワタルさんの幼いころの夢は、パイロットになることだった。しかし、今、将来について考えることといえば、「いつ治療をやめようかな」ということだという。

治療の中断――。それは「緩やかな死」を意味する。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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