ジョン・ハンケ、「ヒット連発リーダー」の秘密 「グーグルマップ」誕生の軌跡とは?

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2004年、グーグルがキーホールを買収する。だが、キーホールはグーグルから買収提案を受ける前から、In-Tel-QとCNNとの契約を機に事業を軌道に乗せることができていた。技術力の高い優秀なメンバーも会社に集まっていた。さらにはシリコンバレーの著名なベンチャーキャピタル、メンローベンチャーズから資金調達することも決まっていた。

グーグルから買収提案が来たのは、彼らとの投資契約書にサインする寸前のタイミングだった。その資金を持ってキーホールは独立したまま事業を大きくできたかもしれない。それでもジョンがグーグルへのバイアウトを決意したのは、自分たちだけで行うより、さらにビジョンを発展させられる可能性に大きな魅力を感じていたからだった。

グーグルからの買収提案についてジョンは「結婚目前に、地球上で最も魅力的な求婚者が突然現れたような感じだ」と表現している。それはグーグルの資本と技術的なリソースがあればキーホールのビジョンの実現を加速させることができ、それはほかのどのベンチャーキャピタルからの出資よりもはるかに勝るものだと考えていたからだ。

ラリー・ペイジはキーホールのビジョンを理解した

グーグルは3000万ドルでの買収を提示していたが、ジョンはその点について交渉することに関心はなかった。ジョンが最も気にしていたのは、グーグルがキーホールのビジョンを理解し、支持するかどうかだった。

そしてグーグルのファウンダーであるラリー・ペイジがキーホールについて「これはグーグルのコアになるかもしれないものだと考えています」という言葉を受け、ジョンはグーグル傘下に入ることを決意する。

グーグルプレックス内、キーホールのメンバーが入ったオフィススペース(写真:Never Lost Again

キーホールの「地球の3Dモデルを世界に届ける」というビジョンと、グーグルの「世界の情報を整理すること」というミッションはとても相性の良いものだったと言える。地図は言うなれば世界の地理情報をまとめたものであり、グーグルマップはあらゆる情報を地図で検索できるようにするためのものだった。

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グーグルマップのローンチ後もグーグルの地図関連プロダクトを担当するジオチームは、彼らのビジョンをさらに発展させるため、次々と大規模プロジェクトを遂行する。世界中の地形や街の様子が見られるグーグルアースや通行人目線で地図が使えるストリートビューなどだ。そうして生まれた機能はスマホからも利用できるようになり、今現在私たちが使っているグーグルマップへと結実する。キーホールが当初描いたビジョンがついに実現した。

キーホールを立ち上げた際、ジョンは「今あるパソコン向けのプロダクトを作るつもりはないんだ。テクノロジーが向かう先を目がけて作りたい」と言った。2010年、ジョンはグーグルを離れ、新たにナイアンティックを創業するが、その時からの想いは変わっていない。

ナイアンティックでは、AR(拡張現実)のある世界の実現を目指して日々取り組んでいる。今はまだスマホでARを見ると、画像が背景と合っていないなどぎこちない部分もあるが、あと数年もすればきっとジョン・ハンケはまた彼の思い描くビジョンを実現させてしまうのかもしれない。

大熊 希美 ライター・翻訳家

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おおくま のぞみ / Nozomi Okuma

東京都生まれ。カナダとオーストラリアに計12年間在住。上智大学総合人間科学部心理学科卒業後、金融業界を経てスタートアップ企業に転職。その後ライター・翻訳業。訳書に『KISSジーン・シモンズのミー・インク』(共訳、日経BP社)、『最強のシンプル思考』(日経BP社)、『フェイスブック 不屈の未来戦略』(TAC出版)。ITニュースブログ「TechCrunch Japan」元編集ライター。

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