青森・八戸の朝市が圧倒的に支持される理由 八戸市の観光需要支える「市民が育てた文化」

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「八戸の朝市は、戦後、引揚者などへの支援事業として開設された市場です。魚を売り、それを町の人たちが買うことで支える……そういったルーツも含んでいます。市民同士が支え合う気持ちは、今現在も変わりません」(宗前さん)

それを表すエピソードがある。

「市民が育てた文化」が観光客を惹きつける

2011年3月11日、東日本大震災が発生し、八戸港も津波に飲み込まれる事態に陥った。その2日後、本来であれば1月、2月の厳冬期を経て、2011年最初の館鼻岸壁朝市が開かれる予定だった。しかし、朝市は中止、再開したのは4カ月後の7月中旬だった。

「その日は過去最高とも思える来場者数を記録しました。黒山の人だかりで、ほとんど歩けない状態です。でも、皆さん本当に楽しそうだった。『同じ場所で開催をするなんて』とお叱りを受けるかもしれませんが、朝市、なかでも館鼻岸壁朝市は、八戸市民にとってハレの日なんです。7カ月間待ちに待った高揚する気持ちと、八戸の復興を盛り上げようという気持ちが重なった、今までに見たことのないようなハレの日でした」(宗前さん)

観光コンテンツは、確かにあの手この手を駆使して、外部から観光客を呼び寄せることが望ましい。しかし、館鼻岸壁朝市を訪れると、つくられた観光とは違い、本来の観光の姿が浮かび上がってくる。そこに観光客が魅せられ、人が人を呼ぶ。

「どの地域にも市民発の文化やコンテンツがあると思います。それをどれだけ市民が育てていくことができるかですよね。八戸には朝市文化があった。それを市民が一緒に育てていくことで、多くの観光客の目に留まるようになった。そういうものに今一度着目することが、新しい観光の萌芽になると思います」(宗前さん)

【出典】
日本人国内延べ旅行者数​:宿泊旅行統計調査(平成28年・年間値(確定値))と宿泊旅行統計調査(平成29年・年間値(速報値))に基づき、四捨五入を行い数字を作成。
八戸市の宿泊者数:公益社団法人 八戸観光コンベンション協会調べに基づき、四捨五入を行い上記数字を作成。
我妻 弘崇 フリーライター

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あづま ひろたか / Hirotaka Aduma

1980年北海道帯広市生まれ。東京都目黒区で育つ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生として芸人活動を開始する。2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーライターとなる。現在は、雑誌・WEB媒体等で幅広い執筆活動を展開している。著書に『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(ともに星海社)など。

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