「現金払いしない人」がお金を使いすぎる理由 カギは代金支払い時に感じる「痛み」にある
6カ月後、貯蓄成績が飛び抜けてよかったのは──コイン方式だった。ほかの方式でも貯蓄はやや増えたが、コイン方式はテキストメッセージだけの場合に比べ、貯蓄額は2倍以上だった。もしかすると、20%のボーナスか、20%ボーナスの損失回避バージョンがいちばん成績はいいだろうと思ったかもしれない。貯蓄を促すには金銭的インセンティブを増やすのがいちばんだと、実際ほとんどの人が予想する。でもそうではなかった。
シンプルなコインが、なぜこれほどの行動の違いを生んだのだろう? 協力者が貯蓄を促すテキストメッセージを受け取ったことを思い出してほしい。彼らの毎日の貯蓄額を調べたところ、コインの効果が最も大きかったのはリマインダーが届いたその日ではなく、それ以外の日だった。金色のコインは、人々が日々を過ごしながら考えることの内容を変化させ、それによって貯蓄という行為を顕著にした。協力者は折りあるごとにコインを目にした。彼らはコインを手で触れ、話題にし、存在を意識した。コインはそこに物理的に存在することで、協力者の暮らしに貯蓄の考えと行為を持ち込んだのだ。四六時中ではなく、ときたまだが、それでも行動を促し、違いをもたらすには十分だった。
よりよい意思決定を行う能力を身につける
この物語は、お金に関する私たちの考え方や欠点を、有利に利用できるという好例だ。私たちは自分のお金を最大化するような方式(この実験では貯蓄に対するボーナスという無料のお金)に最も強く反応して当然なのに、そうしない。それよりもコインのように、記憶や注目、思考を形成するものごとにずっと強く影響されるのだ。暮らしのいろいろな場面にコインのように貯蓄を促すものをとり入れるシステムをデザインしてみよう。
いま、ほとんどの金融技術が私たちにより多く、より早くお金を使わせようとしている。それに対して、お金の決定をするたびに、つねにあらゆる方法で考え抜くべきだとは言っていない。お金の点では賢明かもしれないが、心理的に荷が重く骨が折れるからお勧めしない。
人生は楽しむものだ。これだけはというポイントを選び、長期的に害をおよぼしそうなことはよく考えよう。ときどきは、これを買ったらどれだけの喜びや価値が得られるのかと自問しよう。同じお金があったらほかになにができるか、なぜ自分はこの選択をしようとしているのかを考えよう。自分がなにをしているのか、なぜそうしているのかを意識すれば、よりよい意思決定を行う能力を、ゆっくりと着実に身につけられるはずだ。
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