「現金払いしない人」がお金を使いすぎる理由 カギは代金支払い時に感じる「痛み」にある

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考えてもみてほしい。レストランの食事代をクレジットカードで支払うとき、今支払っているような気がするだろうか? そんなことはない。今はただサインしただけで、支払いをするのは未来のいつかだ。

同様に、その後クレジットカードの請求書がきたら、これから支払いをするような気がするだろうか? そんなことはない。その頃には、もうレストランで支払いをすませた気でいる。クレジットカード会社は出費の痛みを和らげるために、タイムシフトの幻想をただ利用するのではなく、2度も利用する。おかげで私たちは思い切り楽しみ、より気兼ねなくお金を使えるというわけだ。

クレジットカードは、支払いへの注目を減らす力もある。カードを機械に通すという動作は、財布をとりだし、いくら入っているかのぞき込み、紙幣をつかみ、数えて渡し、おつりを待つ動作に比べてずっと簡単だ。現金を使うときの一連の動作の間に、私たちは損失を実感する。対してクレジットカードの場合、損失はそれほど鮮明にも、痛切にも感じられない。

おトクなポイントを気兼ねなく使える理由

前払いは、ギフトカードなどの仕組みにも組み込まれている。スターバックスやアマゾンのギフトカードにお金をチャージした時点で、そのお金は特定の支出に分類される。たとえば20ドル紙幣をスターバックスカードと交換すると、その20ドルはコカコーラや中華料理ではなく、ラテやスコーンに振り分けられる。

そのうえ、お金がいったんその分類に割り当てられると、支払いがすんだような気になる。実際に現金を使うわけではないから、支払い時に罪悪感を持たない。ふだん現金で買うときはショートサイズのコーヒーを注文するのに、ギフトカードではベンティサイズのソイチャイティーラテにビスコッティもつけるという贅沢ぶりだ。

決まったものにしか利用できないギフトカードは、「利用制限つき決済方法」と呼ばれる決済手段の一例だ。航空会社のマイレージサービス、クレジットカードのポイントなども、この一種だ。こうした方法を利用すると、出費の痛みが驚くほど軽くなる。アマゾンでしか使えないギフトカードや、ユナイテッド航空のマイレージなら、他店と比べてアマゾンやユナイテッドがいちばんおトクかどうかを悩む必要はない。すでに分類が決まっているから、なにも考えずにただその金額を使うだけだ。そしてなにも考えないから、支出の決定を厳しい目で評価することもない。

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