「現金払いしない人」がお金を使いすぎる理由 カギは代金支払い時に感じる「痛み」にある
いま、オンライン決済は信じられないほど簡単になっている。
新しい決済方法が怖いのは、出費を意識させない点にある。最近の技術進歩によって、私たちは支払いをしていることにさえ気づかないことが多い。EZ(イージー)パス技術を使えば、高速道路料金が自動的に課金され、月末まで金額を知ることもない(それさえめったに確認しない)。
自動引き落としも同様だ。自動車ローンや住宅ローンの月々の返済額は、クリックもしないまま引き落とされる。ICカードや電子ウォレット、それに開発間近の網膜スキャンなどもそうだ。たしかにこうした「進歩」によって支払いはより簡単に、フリクションレス(煩わしさや手間がない)に、無痛に、軽率になる。なにかが起こっていることさえ知らないのに、どうしてそれを感じられるだろう? どうして影響を理解できるだろう?
なにかを(このケースでは支払いを)意識している状態を表すオトナ語が、顕著性(セイリエンス)だ。出費の痛みを感じ、自分の選択のコストと便益を理解し、判断し、評価するには、まず支払いを意識する、すなわち顕著にすることが欠かせない。
現金での支払いには、顕著性がもともと組み込まれている。お金を見て、触って、数えて、おつりを確認する。クレジットカードは物理的にも(カードを機械に通してボタンを1、2個押すだけ)、支払う金額に関しても、より顕著性が低い。そして各種の電子決済方法はさらに顕著性が低い。
なにかを感じなければ、それで苦しむこともない。人は楽なほう、痛みのないほうに流れがちだ。賢明で思慮深い方法より、楽で痛みのない方法を必ず選ぶ。出費の痛みを感じるからこそ、贅沢な外食のあとでうしろめたい気持ちになり、衝動買いを(ある程度は)思いとどまる。
ボーナスよりも貯蓄額を増やした仕組みとは?
電子マネーは、出費の痛みを感じにくくして、出費を増やさせようとする。では、代わりに出費しているという認識を高めることができれば、出費の痛みは大きくなり、その結果出費が減り、貯蓄が増えるだろうか?
著者たちは、電子マネーのデザインが行動に与える影響を調べるために、ケニアのモバイルマネー・システムの利用者数千人を対象とする実験を行った。
一部の集団には、毎週2通のテキストメッセージを送信する。週初には貯蓄を喚起するリマインダーを、週末にはその週の貯蓄状況を知らせるメッセージを送った。別の集団にはテキストメッセージを少し変えて、「わたしたちの未来」のために貯蓄してくださいという、自分の子どもから来たようにフレーミングされたリマインダーを送った。
次の4つの集団には、貯蓄を促すために金銭的インセンティブを与えた。1つめの集団には100シリングまでの貯蓄に対し10%のボーナスを、2つめの集団には同じく20%のボーナスを、週末に支払った。
3つめと4つめの集団にも100シリングまでの貯蓄にそれぞれ10%と20%のボーナスを与えたが、損失回避の要素を導入した(週初にボーナスの上限額の10シリング/20シリングを協力者の口座に入金し、「ボーナスの金額は貯蓄額に応じて決まること、上限額に達しない場合は差額が口座から週末に引き出されること」を協力者に説明した。この損失回避バージョンは、金額的には通常の週末入金方式と変わらないが、自分の口座からお金が引き出されると痛みを感じるため、協力者は貯蓄を増やすだろうという考えのもとで行われた)。
そして最後の集団は、通常のテキストメッセージのほかに、残りの週数を示す1から24までの数字が刻印された金色のコインを受け取った。家の目立つところにコインを置き、その週に貯蓄をした場合だけ、コインの数字をナイフで削り取った。
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