利益の9割を酒類に依存する事業構造の転換が必要--荻田伍・アサヒビール社長

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--ライバルのキリンは医薬品にも力を入れていますが。

医薬品はかれこれ10年前にやめました。鳥居薬品という会社を持っていましたが、JTに売りました。長期間にわたる研究開発に巨額の投資をするよりも、われわれの強みであるビールとか飲料の技術を生かせる分野に、投資の的を絞ろうと意思決定しています。キリンは医薬品でも非常に先行していらっしゃるイメージがあります。でも、キリンはキリン。アサヒはアサヒです。ライバルをどうのこうのというより、まず自分たちが何をやるかです。そこがいちばん肝心なところです。

--最近、海外のビール市場では大手同士でのM&Aの動きが激しくなってきましたね。

海外勢は上位集中になってきました。インベブとSABミラー、それにアンハイザー・ブッシュ。あと、カールスバーグにハイネケン。この5社で大体市場の半分を占めています。アジアでは、台湾やベトナムの国産ビールがどうなるのかが注目されていますが、韓国や中国、カンボジアなどのアジア市場でも、少し動きそうな感じがしますので、私たちにとってはチャンスですね。

たとえば、ベトナムのサベコ社の株式取得にも興味がありますし、台湾でも10月に(商社最大手の)三商行股分有限公司と合弁で販社を立ち上げました。ロシアではバルチカ社とライセンス契約を結び、スーパードライを売ってもらっています。それ以外にも、海外展開に関してはもう少し加速してやらなければいけないのかなと思っています。

--アジアのビール市場の潜在力は、かなり高いのでしょうね。

そうですね。07年のデータでは、世界のビール総生産量の30%の構成比をアジアが占めており、最大生産地のヨーロッパに一気に近づきました。世界的に株安になっていますし、円高も進んでいる。われわれにとっては有利な状況ですね。

--ただ、逆にアサヒビールが買収される危険性も潜んでいます。

欧米企業と比較すると、酒税込みでアサヒ単体は営業利益率8%ぐらいですが、インベブは2割を超えています。アンハイザー・ブッシュも15%くらい。酒税の関係もありますが、欧米勢とは収益ともにかなりの差があります。企業価値をどう向上させていくかが重要だと考えています。商品開発や社会貢献だとか、いろいろなことを講じる総体としての企業価値を上げていきたい。

--キリンビールやサッポロビールのように、持ち株会社化する計画はありますか。

当然、検討の範囲ではあります。ただ、営業利益の9割を単体で稼いでいるグループが、純粋持ち株会社になってアサヒビールとかアサヒ飲料を下にぶら下げて意味があるのかなと思いますが……。

--食の安全に対する不信感が強まっています。アサヒビールでも事故米を使用した焼酎を9月に自主回収しましたね。

原料はどこであれ、アサヒビールが品質の責任を持ってお客様にご提供している商品ですから、全責任は私たちにあります。そういう意味では猛省しています。今後は、原料をどう確保するのか、あるいは原料の取引先はどこか、どんなチェックをかけていくのか、ということについて、しっかりした対応策を講じていきたい。

委託生産であろうと自社生産であろうと、自分たちのブランドで自分たちの責任でお客様にご提供しているものについては、原料も含めてしっかり品質保証していく態勢をとっていきます。安全宣言をしないといけませんのでね。

(鈴木雅幸、佐藤未来 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)

おぎた・ひとし
1942年福岡県生まれ。65年九州大学経済学部卒業、アサヒビール入社。一貫して営業畑を歩む。2003年アサヒ飲料社長に就任、黒字化を達成。06年から現職。休日はジム通いで日頃のアルコールを飛ばす。将来の夢は四国八十八カ所巡り。

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