利益の9割を酒類に依存する事業構造の転換が必要--荻田伍・アサヒビール社長
20年連続で「スーパードライ」の年間売上数量が1億箱を突破。同商品は2位の「キリン一番搾り」を大幅に引き離す。そのため、アサヒビールの強さの秘訣は、スーパードライの一本足打法と指摘されてきた。だが、発泡酒では2007年に発売した糖質ゼロの「スタイルフリー」が、第3のビールでは今年発売の「クリアアサヒ」が急成長。この分野でも先行するキリンビールを猛追している。消費停滞時代に売れる商品戦略をどう描いているのか。荻田伍社長に聞いた。
--スーパードライ以外に、第3のビールで強い味方が出てきましたね。
新ジャンル(第3のビール)で今年出したクリアアサヒがやっとヒットしました。従来の新ジャンルというのは大豆やエンドウ豆といった原料を用いるのが主流だった。クリアアサヒは麦芽を原料に使ったアサヒらしい商品です。おかげ様で、今期の販売目標を1000万箱から1300万箱に上方修正しました。
--第3のビール市場が急成長していますが、酒税の見直しの可能性も考えられますか。
これだけ法人税とかが減ってくるとなると、間接税というのは大きな位置づけになります。タバコは1000円になるという話もある。そうなると酒税の引き上げという問題もあるかもしれません。
--やはり、アサヒビールの強みはスーパードライでしょうが、弱みは何ですか。
ビール、発泡酒、新ジャンル(第3のビール)の全カテゴリーの中で、スーパードライは年間1億3000万箱に近い売上数量で、圧倒的な強さです。ビール市場が縮小する中で、今年22年目に入りましたけれども、いまだにシェアがアップしています。逆に弱みは発泡酒、新ジャンル(第3のビール)の中でトップを取れていないというところ。それにスーパードライ一辺倒といわれる中で、新しいビールの提案もいろいろな形でしていかなければならない。マーケット全体のビールの消費を上げていくことを、メーカーとしてもっとやる必要があります。
--スーパードライに続く、ビールの新ブランドを作るということでしょうか。
新ブランドというより、たとえば、プレミアムビールをどうするかということを考えたいということです。プレミアムの「熟撰」を家庭用市場でも発売しましたが、これを市場でどう成長させるのか。ほかにも今、海外のベルギービールなどが脚光を浴びています。9月からは同国のインベブ社のビールを国内で輸入販売しています。国内で言えば各地の地ビールに注目しています。お客様からのいろいろなビールを飲みたいというご要望も増えてきています。ビールのバラエティを少しずつ増やして、ビールを飲む楽しさとか、新しいビールの飲み方を提案していきたいですね。
--消費停滞でなかなかモノが売れない。こういう時期、営業はどのように取り組まれるのですか。
長い間、先輩たちが作り上げてきたものがたくさんあるわけです。そのうえで、どうパワーアップするか。流通側も変わってきましたが、今は地域密着型の営業を盛んにやらせています。価格だけではいけなくなりましたので、どういう提案ができるのかということですね。現場力をどう高めていくか。中間管理職も含めてね。一発、本社から商品を流して販促して、それですべてがうまくいくというふうにはならない。もちろん、相手方が自分のプラスになると思わなければ売ってくれませんよ。私たちメーカーだけがよくて、取引先には利益が出ない提案をするのでは絶対ダメですね。
--食品事業と飲料事業の強化も課題ですね。
アサヒビールグループは酒類依存型です。お酒の売り上げが7割近い構成比を占めています。営業利益段階ですと、9割は酒類で稼いでいる。しかし、酒類のマーケットが縮小する中で、このままの状態で優位性を保てるかどうかは不明確です。逆に飲料や食品のマーケットは大きく、当然力を入れて事業構造を変える必要がある。
07年には、飲料ではカゴメと資本業務提携し、カルピスとも合弁会社を作り自動販売機の相互活用で協力関係にあります。食品はベビーフードの和光堂と資本提携し、今年9月にはみそ汁の具などに使われるフリーズドライ食品の天野実業という会社に仲間に入っていただきました。いいお話があれば、飲料や食品の企業とのM&Aを継続的にしていきたいと思います。それは海外でも同じです。