しかし、単に100億ユーロの現金をバラまくだけでは、問題は解決しない。五つ星運動の市民所得は、人々を貧困から救うのに力不足なばかりか、細切れの同国社会保障制度が抱える問題を覆い隠し、かえって貧困層を苦しめる結果ともなりかねない。必要な構造改革が遅れることは、言うまでもない。
イタリアの経済は欧州主要国の中でも後れを取っている。連立政権は小手先のバラマキ政策ではなく、輸出や投資など経済そのものをテコ入れすべきだ。
ユーロ圏離脱派が強硬路線を突っ走れば……
市民所得については同盟の支持者が反発しており、5つ星運動との間に亀裂が走っている。そんな両党が今も結束していられるのは、EUからイタリアの国家主権を守り抜く、という反EU路線のおかげだ。イタリアの連立政権は少し前まで難民問題をめぐってEU加盟国の首脳陣と丁々発止の議論を繰り広げていたが、今度はEUの財政ルールに挑戦状をたたきつけている。すべては大衆からの支持をつなぎ留める目的である。
しかし、資本が瞬時にして国境を越える現代において、ガチガチの国家主権を標榜するのは不適切なだけでなく、危険だ。アルゼンチンを見れば一目瞭然だが、ポピュリスト政権に対して海外投資家が不信感や恐怖感を強めれば、資本逃避が起き、財政は一気に破綻へと向かいかねない。
イタリアはまだそこまで行ってはいないが、弱い経済、悪化し続ける財政、経営難の銀行、構造改革計画の欠如、と経済危機の材料はすべてそろっている。今後、政権内のユーロ離脱派が強硬路線を突っ走るようになれば、状況は一段と沸点に近づくだろう。何しろユーロ圏の一員であることが、これまでイタリアに無責任な政策を自重させ、財政規律を守らせる最大の歯止めだったのだから。
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