パッソの絶妙な立ち位置は、トヨタや競合のコンパクトカーとの比較にとどまらない。軽自動車と比較する一定のユーザーに訴求できる商品力があるのだ。
今の軽自動車は、排気量660cc以下のエンジンを積むとともに、全長3400mm×全幅1480mmのボディサイズに収めなければならない規格がある(ちなみに軽自動車は全高も2000mm以内という規格はあるが、軽乗用車でオーバーすることはまず考えられない)。
軽自動車の利点以上に優位性のあるパッソの魅力とは
その代わりに税金(軽自動車税、重量税)や車検代をはじめとする維持費が安いのが、軽自動車最大の利点。今では軽自動車の走行性能や安全性などの商品力も高まり、国内新車市場の4割近くが軽自動車で占められている状況で、登録車のコンパクトカーにとってもライバル的存在になっている。
軽自動車のヒット車種は月販1万台を平気で超えており、パッソが軽自動車に真っ向から対抗できているワケではない。ただ、軽自動車に比べるとやや大きなボディサイズを生かし、2つの点で軽自動車に優位性がある。衝突安全性と乗車定員である。
今の軽自動車は昔に比べて衝突安全性能は格段に向上している。それでも、ボディサイズの限界があり、相対的には登録車の最新モデルのほうが優位というのが一般的だ。セールストークとしては、テレビ通販などでの「あくまで個人の感想」といったレベルに近いのかもしれないが、受注に持ち込むための殺し文句としては有効だという。
実際、あるトヨタカローラ店のセールスマンによると、「軽自動車の購入を検討しているお客様へ向け、より高い安全性をアピールせよ、という趣旨の指示がある」という。
そして軽自動車の最大乗車定員は4人。対して登録車であるパッソは同5人だ。いざというときの安全性を持ち、なおかつ人数も1人多く乗せられる。加えて、昨今の軽自動車は車両価格が上がっており、購入総額でパッソと差がないケースも少なくない。これらの点から軽自動車と比較検討したうえで、パッソを選ぶユーザーが一定数はいると推測される。
トヨタカローラ店の営業力の強さも、パッソが堅調に売れている理由の1つに挙げられる。トヨタ系以外のメーカー系ディーラーでは、お客の言うことをそのまま聞くだけの“売り子”イメージの強いセールスマンが目立つのだが、トヨタ系ディーラーでは、きちんと売り分けられるセールスマン然としたスタッフが目立つ。単純に売るのではなく、他車も含めて検討しているお客に「買ってもらえる(選んでもらえる)」ように動いている。
ただ、トヨタカローラ店の販売現場では、パッソの安全運転支援システムが「なぜ、トヨタセーフティセンスではなくスマートアシストなの?」とお客から質問されることもあるそうだ。パッソがダイハツ製との認識を持っているユーザーが少ないからと言える。だからといって、それを気にして購入しないというユーザーも少数派なのだろう。
軽自動車の販売が好調な一方で、いったん軽自動車にしてみたが、小排気量エンジンは回さないとパワーが出ないため、ユーザーが期待するほどの燃費を得られていないケースもあって、登録車(主にコンパクトカー)に回帰する人もいると聞く。
ダイハツとの協業モデルとして初代登場から14年。そのようなお客も含めて、パッソはあえてコンパクトカーとして最小・最安、軽自動車の弱点を突く絶妙な立ち位置によって隠れたヒットモデルとなっているのである。
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