瀕死だった「地ビール」にキリンが夢中なワケ ウイスキーに続き「オジサンの酒」復権なるか

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京都産など原料は地域限定も(撮影:今井康一)

提供するビールには、アルコール度数以外にも苦味の程度や麦汁の濃さを表示しているのが特徴。若者がビールから離れた原因の1つに、ビールがもつ“苦味”が挙げられる。苦味は特にホップに由来するが、大量生産されるビールのほとんどに熱で成形したペレットホップが使われている。

これに対し、SVBが提供するクラフトビールの定番の1つには、上質な苦味を醸すとされる「乾燥ホップ」が使われている。収穫や処理に手間がかかり扱いも難しい乾燥ホップだが、独特の香りと味わいを生む。

限られた市場を奪い合うビール商戦は、ほかの産業と比べても攻防が激しい。これに対して、市場が小さいクラフトビールはそうした段階にはなく、日本にクラフトビール市場そのものを根付かせ、拡大させていくという段階にある。

「競争よりも協調が重要。地域を切り口にするなどで、ブルワリー同志が協力し合い、時には産官学を巻き込んでいく」(島村氏)

SVBの代官山店。女性や若者にも入りやすいスタイリッシュなデザインだ(撮影:今井康一)

その一例が、2015年からSVBが毎年秋に実施する「フレッシュホップフェスト」という日本産ホップを盛り上げるイベント。2015年に参加したブルワーは12社だったのが、今秋は314社中55社が参加。「戦うのではなく、一緒につくり合う関係を構築していく」(島村氏)。

今夏には、地域を巻き込んだ活動「京都産原料100%ビールプロジェクト」を開始した。大麦やホップなどの京都産原料を一部使用して醸造したビールをSVB京都で今秋から提供し、2020年には酵母を含めたすべての原料を京都産としたビール醸造の実現を目指すというものだが、京都府や亀岡市、地元大学、京都のホップ農家や農協、府内のブルワリー8社などが参画している。

クラフトビールがビール復権のきっかけとなるか

日本のビール会社を取り巻く環境は厳しい。業界内での過当競争もあるが、他業界と少し違う点としては、酒税の問題もある。日本のビール業界は2026年までにビール、発泡酒、第3のビールと、現在3階層ある酒税が段階的に統一されるという変化にさらされる。それが業績にダメージを与える可能性もある。

キリンはクラフトビール事業を手掛ける一方、今年、イオンなどから第3のビールのPBの製造を請け負った。少量多品種の一方で、大量生産で稼ぐ道も両にらみで模索する。

ウイスキー復権のきっかけとなったハイボールのように、クラフトビールがビール復権を導くのか。そのカギをキリンが握っている。

永井 隆 フリージャーナリスト

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ながい たかし / Takashi Nagai

1958年生まれ。群馬県桐生市出身。明治大学卒業。1992年、記者をしていた東京タイムズが突如休刊し失業を経験。フリージャーナリストとして独立。雑誌や新聞、ウェブで精力的に執筆。著書に『アサヒビール30年目の逆襲』『サントリー対キリン』『EVウォーズ』(いずれも日本経済新聞出版社)など。

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