「アンソロジー」でたどるクラプトンの軌跡 ロックの現代史そのものでもある

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イントロは、1度聴けば忘れられない強靭なフレーズです。A→C→D→F→D→C→D と連なる音が胸に迫ります。ブルースの雄フレディ・キングに霊感を得て、ロックとブルースが高純度で融合。クラプトンが燃えに燃えて弾いています。それは、パティへの想いもありますが、もうひとつの明解な理由があります。

セッション・ギタリスト、デュアン・オールマンの存在です。知名度、人気の点では、クラプトンには遠く及びませんが、デュアンのスライド・ギターは紛れもなく天賦の才によるものです。それがクラプトンのギタリスト魂に火を付けました。2分18秒から始まるクラプトンとデュアンの掛け合いはロック史上に残るものです。数多のギター小僧たちがコピーして学園祭などで披露したものです。

そして、歌です。ギタリストとして音楽キャリアを始めたクラプトンがヴォーカリストとしての才能を開花させたのです。この曲は、極めて私小説的です。己の内面をさらけ出しています。その内面を切々とつづる歌詞も直截(ちょくせつ)ですが、クラプトンの歌唱が圧巻です。率直に言って、たいへん上手なわけではありません。が、血を吐くようにうたう、その想いがビンビン伝わって来ます。

また、この曲の構成が凄いです。強烈なイントロ、効果的な転調、熱いギター・バトルというドラマチックな展開に牧歌的なアウトロ、文句なしです。クラプトンのソングライターとしての才能も開花したわけです。

愛の行方~クラプトンの成長

その後のクラプトンとパティです。

あれだけの名盤を生むほどに恋い焦がれた愛の力は、「やはり、強かった」と、言わざるを得ないでしょう。パティはジョージ・ハリスンと別れます。1979年、クラプトンはめでたくパティと結ばれます。クラプトン34歳、パティは35歳です。子供も授かり、幸福そのものです。酒や薬に溺れた日々は過去のものとなりました。

ところで、生活が落ち着くことと音楽の創造力の間にどんな因果関係があるのでしょうか。大傑作アルバム『いとしのレイラ』が生まれたのは、まさに疾風怒濤のなかからでした。「美は乱調にあり」が真理ならば、安定した生活からは「可もなく不可もなく」的なものしか生まれないかもしれません。

幸福な家庭を持ち、落ち着いたクラプトンの場合は、どうでしょうか。

エリック・クラプトン『CROSSROADS』、邦題は「アンソロジー」

エリック・クラプトンは、幼少期から一筋縄でいかぬ複雑な環境で生きて来ました。ギタリストとして順風満帆であっても、バンドの人間関係に苦しみ、満たされぬ愛に傷ついてきました。ついにパティと結ばれたクラプトンは、ギタリスト、歌手、ソングライターとしてバランスの取れた音楽家として一回り大きな音楽家に成長しました。

1977年発表の『スローハンド』がそれを如実に物語ります。肩肘を張らずリラックスした中にクラプトンならではのオリジナルな音楽が息づいています。表題のスローハンドは、クラプトンの愛称です。その意味するところは、技巧的には非常に高度で難しく高速フレーズでもゆっくり弾いているように感じる、というものです。最高の賛辞と言っていいでしょう。

ハイライトは、「ワンダフル・トゥナイト」です。この曲もパティを歌ったものです。幸福感に満ちた名曲で、今もクラプトンの最重要レパートリーの一つになっています。「ワンダフル・トゥナイト」も『アンソロジー』で聴くことができます(ディスク4)。

クラプトンが今日に至るまでにたどった音楽的冒険譚は、ロックの現代史そのものです。同時に、クラプトンの私生活も深く関わっています。今週末は『アンソロジー』で音楽による自叙伝を味わってはいかがでしょう。
 

小栗 勘太郎 音楽愛好家

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おぐり かんたろう / Kantaro Oguri

1958年生まれ。東京外国語大学卒。米国滞在7年余。音楽愛好家。ポップ、ロック、ソウル、ジャズ、映画音楽からクラシックまで幅広く聴く。現在、 西日本新聞に「音楽プラスα」、毎日フォーラムに「歴史の中の音楽」を連載中。著書に『音楽ダイアリー SIDE A』『音楽ダイアリー SIDE B』(いずれも西日本新聞社刊)。

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