オーガニックコットン市場を開いた商社マン ニッチ繊維を“大衆化”せよ!

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人気バンドのコンサートグッズへの採用が、オーガニックコットンの大衆化への道筋をつくった。©ap bank

2007年5月から半年間のツアー期間中だけで、約100トンのオーガニックコットンを売り切った。当時の国内市場規模は300~400トンであったから、実に年間市場の3分の1に及ぶ量が同ツアーだけで消費されたことになる。

この成功がオーガニックコットン市場を変えた。同業他社もオーガニックコットンになだれを打って参入したのだ。市場は2007年から08年の間に一気に膨張。オーガニックコットン市場規模を示す正確なデータはないが、現在は無印良品のような有名ブランドでも取り扱われており、最低でもその数倍には膨らんでいる。

原料屋からの飛躍

成功に酔うヒマもなく、狩野はオーガニックコットンに関する新しいプロジェクトの立ち上げに携わった。それが、2008年より実施したプレオーガニックコットン(POC)プログラムだ。

一般の綿花生産者がオーガニックコットン栽培へと移行する際、認証が下りるまでの3年間は苦難の時を強いられるという。採算の悪い無農薬農法にもかかわらず、売り値は普通のコットンと同一として扱われるためだ。目先の苦戦がわかるだけに、なかなか生産に踏み切れない農家も多い。

それをサポートするのがPOCプログラムだ。3年かかるこの移行期間内に、農家への事前買い付け保証や有機農法の指導、オーガニック認証の取得サポートなど、各種インセンティブを与える。こうして綿農家からオーガニックコットン農家への転換を促し、生産量を増やし、さらなる市場拡大に弾みをつける試みである。

そうした活動を経て、狩野は42歳にして、伊藤忠商事の子会社ハンティングワールド・ジャパン社の副社長を任される。オーガニックコットンのブランド確立に大きく貢献した功績も買われてのことだ。

原料畑から、未知の高級バッグのマーケティング担当へという辞令には、戸惑いも覚えたという。しかし「仕事の本質は変わっていない。人とつながり、そうした人と人とのつながりの中で、新しい商機を見いだしていくかだ」と狩野は言う。

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