民主主義は、どのように殺されていくのか ハーバード大学教授が導き出した結論とは?

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私たちは政治家がどのような政策を提案しているかだけではなく、その主張をどのように実現しようとしているか、政敵をどのように扱っているかにも注意を払うべきなのだろう。この民主主義のガードレールがどのように機能していたか、そしてどのように失われていったかという部分は本書の読みどころの1つである。

規範が人種の排斥の上に成立

相互的寛容はいつでも善意によって構築されるわけではない。血みどろの南北戦争後に民主党と共和党の間での敵対心が和らいだのは、アフリカ系アメリカ人から選挙権を取り上げることに両党が合意したからだ。南部における白人至上主義と独裁を保つことができたからこそ、民主党員の恐怖心が取り除かれ、共和党と建設的な議論や協力ができるようになったのである。

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”アメリカの政治システムを支える規範は、その大部分が人種の排斥の上に成立するものだった。(中略)人種の排斥は政党の礼節と協力の規範の大きな支えとなり、それが20世紀のアメリカ政治を特徴づけることになった。”

もちろん、21世紀のおいて人種排斥を規範の土台とすることなど許されない。移民の増加、格差の拡大やメディア環境の変化によって、二極化はその度合いを増しているように感じられる。著者は、「共通の道徳的立場を見つけるために、一時的に意見の違いに眼をつぶらなくてはいけない」と主張する。生の意味を考えるためには、死を見つめる必要がある。民主主義の死に方を知ることで、これからの民主主義の姿を考えるヒントを与えてくれる一冊だ。

村上 浩 HONZ

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むらかみ ひろし / Hiroshi Murakami

1982年広島県府中市生まれ。京都大学大学院工学研究科を修了後、大手印刷会社、コンサルティングファームを経て、現在は外資系素材メーカーに勤務。学生時代から科学読み物には目がないが、HONZ参加以来読書ジャンルは際限なく拡大中。米国HONZ、もしくはシアトルHONZの設立が今後の目標。

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