フェンシング2.0に挑む会長・太田雄貴の奮闘 スポーツ界をいかにしてアップデートするか

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太田会長のスーツの胸元のブローチはフェンシングの剣だった(撮影:今井康一)

その足かせを取り払い、東京グローブ座の持つポテンシャルを最大限に発揮し、エンターテインメント性という付加価値をつけることで、値上げした価格に見合う価値を提供しようという狙いだったのだ。

かくして、マイナースポーツの観戦チケットとしては、前代未聞の価格設定にもかかわらず完売した。

そのウラには、昨年から取り組んできた太田の緻密な戦略があったといえよう。もちろん、昨年に比べれば観客動員数は半分以下だ。しかし客単価は大きく向上させることができたのだ。

「何より、上限を5500円にしても完売するということを、僕らフェンシング関係者の人たちは実感する必要がありました」

改革本番に向けて

太田は、日本フェンシング協会のビジョンを「フェンシングの先を、感動の先を生む。」と掲げ、フェンシングを取り巻くすべての人々に感動体験を提供し、フェンシングとかかわることに誇りを持つ選手を輩出し続けることを目指している。

そして、「フェンシング協会登録者数を5万人に増やす」「2020年の東京五輪・パラ大会を成功させること、メダルを目指すことだけでなく、その後の日本社会にフェンシングを根付かせる」「財政基盤の安定」などの目標を挙げる。

その中には、「フルーレ」「エペ」「サーブル」という種目に加えて、新種目を設ける提案を日本から発信するなど、フェンシングそのものを作り変えるような、大胆な取り組みも構想中だ。

つまり、今回紹介した、全日本選手権での太田の挑戦は、あくまでも、日本フェンシング協会が掲げる改革の一例でしかない。

これまで、日本のスポーツ界は、勝利至上主義とともに歩んできた歴史があった。オリンピックに勝つことを目的にすれば、国からの補助金がもらえて、その補助金が競技団体の活動を支えた。

各団体は、自らの競技存続のためにも強化を進めてきたが、人材が不足している競技団体は、強化以外に資源を割くことはできなかった。スポーツ界全体がそのような構造になっているのだ。

太田は、この考えでは、2020年以降確実に成り立たなくなると、昨今のスポーツ界全体の問題を指摘する。

最近のスポーツ界の騒動についても指摘した太田会長(撮影:今井康一)

「今年、世の中を賑わせてしまったスポーツ団体の問題というのは、強化一辺倒の組織にこそ起こる問題だったと思う。

協会というのは、本来、強化本部を持ちながらも、マーケティングや、マネージメント、ガバナンス、ダイバーシティなどを推進する役割があるはず。

あくまで活動の1つとして強化があって、日本フェンシング協会としては、強化がいちばんではないということ」

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