「早く沢山」儲けたいと考えると大損する理由 投資初心者が陥りがちな「危険なワナ」とは?

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また投資というのは先の見えない不確実なものにお金を投じる行為ですから、1つの投資先にすべてのお金を投じるというのでは当然リスクが大きくなります。必然的にさまざまな投資対象に投じるお金を分散しておくことが一般的です。

でもその場合、たとえば株式投資なら上がる株もあれば下がる株もあるわけですから、結局は短期間に巨額の利益を得ることはなかなか困難です。その代わり、投資先の会社の状況が非常に悪化しても他の株でカバーすることが可能なことも少なくありませんから、大きな損を出す可能性は少なくなります。これに対して、投機の場合は集中的にお金を投じるのが普通です。したがって儲かったときは大きい代わりに、損した場合も大きいということになるのです。

「できるだけ早く、たくさん」儲けたいという気持ちはよくわかりますし、そのための方法も存在するのですが、最大のネックは、その成功確率はあまり大きなものではないということです。むしろ長期的にそのような方法を続けていると、最終的には損失のほうが大きくなる可能性が高いというのが、一般的な傾向です。

一般に「投資はプラスサムだけど投機はゼロサムだ」と言われます。プラスサムというのは同じ投資対象に投資する人が長い期間売らずに保有し、その企業価値が向上した場合には保有している人が全員儲かるということです。

これに対してゼロサムというのは儲かった人と損した人の総和が同じになることです。単純に64人の人が1万円ずつ出して、じゃんけんゲームをし、勝ち抜いた1人がそのお金を総取りすると考えるとわかりやすいでしょう。64⇒32⇒16⇒8⇒4⇒2⇒1という具合に勝ち抜いていき、最後は全員が出したお金の合計64万円を1人で総取りすることになります。

つまり、この場合、6回連続でじゃんけんに勝った人が64万円を取り、自分の出した分を引いて63万円の儲け、そして残りの63人が1万円ずつ損をすることになります。わかりやすくするために、極端に単純化したお話をしましたが、要するにゼロサムというのはこういうことなのです。

「Grow Rich Slowly」が投資の大原則

多くの人が「早く、たくさん」儲けたいと思っていてもそれはかなり難しいことだとすれば、「ゆっくり、少しずつ」儲ける方法を考えたほうがいいということになります。それがまさに投資の考え方の基本と言っていいでしょう。

“Grow Rich Slowly”という言葉があります。「ゆっくり確実にお金持ちになろう」という意味です。アメリカの大手証券会社であるメリルリンチ社が1990年代に同じタイトルの本を出版したことがありました。この本は退職後の考え方について「長期にわたって老後資金を作っていきましょう」という趣旨の本です。まさに投資の本質を的確に言い当てた言葉だと言えます。

投資というのは企業価値の向上に賭けるものですから、少しずつ時間をかけてお金を育てていくべきです。ただ、いくら長期的にと言っても、「長期的に衰退していく」対象に投資したのでは何にもなりません。また、先のことは誰もわからないのですから、リスクを避けるために1つのものに集中せず、分散投資をする必要があります。結果的には投機のように「早く、たくさん」儲けることはできませんが「早く、たくさん」損をすることを防ぐことができるでしょう。

少しずつゆっくりと、利益を増やす可能性を高めていくこと、これこそが投資の王道であり、投資の本質ということになります。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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