ノーベル賞の大発見は「偶然の産物」だった

「偶然を見逃さないことも科学研究では大切」

われわれの体内には日々がん細胞が発生しているが、通常は免疫の力によって排除され、がんを発症せずに済んでいる――。1950年代、後にノーベル賞を受賞した免疫学者バーネットにより、こうした説が提唱された。

以後、がんを免疫で抑え込もうという治療法の開発は世界中で熱心に進められたが、十分な成果を出せずにいた。実はそれには理由があり、がん細胞が、巧みに免疫をかわす術を備えているからだった。

1992年、本庶研究室の大学院生だった石田靖雅氏(現・奈良先端科学技術大学院大学准教授)は、免疫細胞の細胞死に関わる分子を探す中で、免疫細胞に発現しているPD-1(Programmed cell death-1)という分子を見つけた。当初、その機能はよくわからなかったが、本庶氏らは、それが“免疫のブレーキ役”(免疫チェックポイント分子)であることを突き止めていった。

PD-1とPDL-1との結合を阻害して免疫を再活性化

免疫細胞は、異物を認識すると活性化され、増殖して攻撃を開始するが、がん細胞はPD-1を利用してこれを抑え込もうとする。本庶氏は、がん細胞表面にはPD-1と特異的に結合するPDL-1が発現し、両者が結合すると、体内にがん細胞が大量にあっても免疫が応答しなくなることを見出した。がんを退治しようと、いくらアクセルをふかしても、ブレーキがかかっている状態に陥るのだ。

本庶研では小野薬品工業とともに、PD-1とPDL-1との結合を阻害し、免疫を再活性化する抗 PD-1抗体(オプジーボ)を開発。2014年、オプジーボは、皮膚がんの一種、悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として、世界で初めて日本で承認された。

従来の抗がん剤は、言わば“毒をもって毒を制する”薬であり、正常細胞まで傷つけてしまうが、免疫治療薬には、そうした副作用はないことが、大きな特徴だ。

また、免疫療法は、そのメカニズムからして、がんの種類を選ばず幅広いがんに効く可能性があり、オプジーボは2015年以降、非小細胞肺がん、腎細胞がん、血液がんの一種、頭頸部がん、胃がんなどに適用が広がった。世界中でその適応拡大を目指して、さまざまながんに対する治験が行われている。

残念ながら、承認されたがんのうち縮小効果を示すのは3割程度の患者である。また、活性化された免疫が自己の組織を攻撃してしまう『自己免疫疾患』という副作用も報告されている。いったん効いた人は長期間効く傾向がある。どんな人に効くのか、いつまで効くのか……など、現状では正確に予測がつかず解明が待たれている。

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