フランス発25万円スピーカーは何が凄いのか パトロンが支援、フランス起業ブームの実態

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フレンチテックの躍進を印象づけたのは、2017年1月に開かれた世界最大の家電見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。フランスのシンボルともいえる赤い鶏のマークをつけたフレンチテック企業が360社も出展したことで、一躍話題になった。

フレンチテックが躍進したのはフランス政府の後押しが大きい。前オランド政権のデジタル担当大臣、フルール・ペラン氏が提唱し始め、2013年から政府によるベンチャー支援がスタート。マクロン現大統領も、経済・産業・デジタル大臣時代から力を入れる肝いりの政策だ。

フランス政府がベンチャー育成を強化する背景には、深刻な社会問題が横たわる。

フランス企業の国際展開支援などを担う「ビジネスフランス」の日本支社上席貿易担当官、林薫子氏は「フランスは物理や数学などの水準が高く、優秀なエンジニアが育つ土壌があるが、日本同様に終身雇用の慣習があり、人材の流動性が低い。

起業するにも、ベンチャー・キャピタルが少なく資金が集まりにくい。その結果、高学歴の若者が職にあぶれたり、シリコンバレーへ流出してしまうという問題に悩まされてきた」と話す。

フレンチテック・ブームを後押しするのが、巨万の富を持つ“パトロン”の存在だ。陰の主役と言われるのが、グザビエ・ニール氏。先のデビアレの場合、スピーカーを量産するにあたって、独特のデザインで部品点数も多い製品を受託生産できる工場が見つからず、国内で自社工場を新設することになった。その際、資金を提供したのがニール氏だった。

パリ13区に設立された、起業家育成拠点「Station F」の外観(写真:ビジネスフランス・ジャパン)

ニール氏は、高校時代にアダルト・チャットのサービスで起業し、その後、通信キャリア「Free」を創業、大きな成功を収めた。現在は複数のベンチャー企業に出資するほか、2017年6月にはパリ13区の旧駅舎跡を改修し、起業家育成・支援の拠点「Station F」を開設した。

フェイスブックやマイクロソフトなどもここに拠点を構え、起業家育成プログラムを提供する。1万坪を超える施設の改修にあたっては、ニール氏の私財が約2億5000万ユーロ(約320億円)投じられたという。こうしたパトロンの存在も、フランスにおけるベンチャーブームの特徴の1つといえる。

ブランディング戦略に残る課題

とはいえ、世界市場で成功したといえるのは、デビアレのほか、京セラと協業するIoTネットワークのSigfox(シグフォックス)やインターネット広告サービスのCriteo(クリテオ)など、まだ両手で数えられるほどしかない。さらに、現状では技術の革新性や質の高さを問わず、誰でも「フレンチテック」と名乗ることができる。赤い鶏マークのロゴも自由に使用することができてしまうなど、ブランディング戦略はまだまだだ。

「フレンチテックという呼称がある程度浸透してきた今、政府として競争領域や、技術のレベルをふるいにかける必要がある」(林氏)。“フランス版シリコンバレー”は生まれるのか。取り組むべき課題はまだ山積している。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界、総合電機業界などの担当記者、「東洋経済オンライン」編集部などを経て、現在は『週刊東洋経済』の巻頭特集を担当。過去に手がけた特集に「半導体 止まらぬ熱狂」「女性を伸ばす会社 潰す会社」「製薬 サバイバル」などがある。私生活では平安時代の歴史が好き。1児の親。

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