(第5回)新規事業立ち上げのプロセス(前編)

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(第5回)新規事業立ち上げのプロセス(前編)

坂本桂一

 今回と次回で2回にわけて、新規事業立ち上げにおいて、望ましい具体的なプロセスの一部と考慮すべきポイントを説明します。
1.目的を決める
 前回までに書いていますが、「新規事業の目的」は、その新規事業の将来を決めるといっても過言ではないほど重要なものです。少人数のトップ層やその直轄のメンバーで、建前や前例にとらわれずにとことん議論し、考え尽すことをおすすめします。もし、強力な事業アイデア、ビジネスシーズがあり、それを具体化する方向で始まる形の新規事業の場合も、会社にとってその事業を行なう目的まで遡って議論するべきです。もしかすると、強力だと思われる事業アイデアも、自社が求めている新規事業像とは乖離しており、ビジネスシーズ自体をより最適な他社に渡すべきケースもあると思われます。
2.事業テーマを決める
 会社にとって新規事業を立ち上げる目的が決まったら、次は何をそこでやるかを決めなければなりません。この部分は、事業立ち上げ経験者のいない多くの企業が苦労するところです。新規事業テーマを決めるにあたってよくあるのが、社内から新規事業のアイデアをシステム的に公募するというやり方です。
 こうした、新規事業のアイデアを、毎週最低ひとつ提出するよう社員に義務づけている会社は、意外によくあります。
 しかし、こういうやり方が功を奏したというケースは、ほとんどないようです。最初はアイデアが集まるが、すぐに形式だけのものになってしまうのが普通です。
 なぜなら、きちんと新規事業の目的が参加社員に共有されていることはまれで、アイデアの多くが新奇性や面白さ(そして時には、その社員が現在扱っている商品の単なる一ラインナップレベル)に終わることが多いためです。
 また、応募内容もむき身のアイデアレベルで、ビジネスとしての自社の関わり方や収益性、いわゆるビジネススキームまで到達できるもの(またはそのポテンシャルを持ったもの)はほとんどないケースが多いようです。
 結果、応募する方も選ぶ方も行き詰まり、最終的にはトップに対するプレゼンテーションとして、応募数を維持し増やすことだけが自己目的化してしまっているような例もよくあります。

 私がお勧めしているのは、新規事業のテーマを社内で考えるとき、それにふさわしいと思われる人を集めてチームを作り、そこに新規事業のアイデアを考える、集めるというミッションを与える手法です。このチームを仮にインキュベーションチームと名づけましょう。
 インキュベーションチームは、社内の若手~中堅を中心に、新規事業立ち上げに関心があり、能力も高い人材を集めます。その見極めのために、会社の仕組みとして、新規事業企画のワークショップ型研修などを行い、常に会社側が人材の見極め、プール化を行なえるような環境を作るのもよいでしょう。出身部署は、ひとつに固まらずに複数の部署から集め、そして、もちろんこのチームは当ミッションに対する専任であるべきです。
 このチームに対しては、最初に、新規事業の目的をはっきり共有しておいてから、アイデアを出させます。
 次に、そのなかからビジネスモデル化できるものだけを選び出し、それぞれについて、立ち上げからゴールまでのスキームを作らせる。ここで、うまくスキーム化できないものから消していきます。
 ビジネススキームは、いわゆるビジネスモデルというような静的な一枚絵のイメージではなく、ビジネスの立ち上がりから、成長軌道に乗せるまでの顧客や競合の動きから、調達先、提携先等の動きをすべて想像し勘案した結果、導きだされる動的なイメージです。ここまで考えて、目的もゴールもぴったりで、ビジネスとして成立しうると誰もが納得するスキームができたら、ようやくそれが新規事業の候補になるのです。

 私は普段よく、新規事業を煮詰めるときには「今存在しないそのビジネスを既に見てきたように語れるレベルになるまで」考え尽すべき、と言っていますが、この作業には最低でも三カ月、数百時間必要だと思っておいてください。また、アイデアを考えるチームは、必ずしもひとつでなくてもよく、むしろ複数あったほうがいいでしょう。そして、最終的には、各チームからあがってきたスキームを比較検討し、もっとも完成度の高いものを新規ビジネスの候補として、ビジネスプランの策定に入ります。
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