安倍首相が描く「改憲への道」は視界不良だ 「公明」「参院選」「国民投票」が高い壁に

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特に、これまで自民党内での憲法論議の中核を担ってきた船田元・憲法改正推進本部長代行(竹下派)は「首相の改憲への姿勢に同調できない」との理由で総裁選では抗議の白票を投じた。また、歴代首相の後継者の竹下亘総務会長、小渕優子元経済産業相、小泉進次郎筆頭副幹事長らも石破氏を支持したことで、「自民党の中核部分でも首相の強引な改憲姿勢への反発が根強い」(竹下派幹部)ことが浮き彫りとなった。

首相サイドは「総裁選での首相支持は過去最高の7割弱」(側近)と主張し、首相自身も3選直後の記者会見で、「70年以上一度も実現してこなかった憲法改正にいよいよ挑戦し、平成のその先の時代に向かって新しい国造りに挑んでいく」と改憲実現への意欲と決意を、あらためてアピールしてみせた。しかし、総裁選で首相支持に回った岸田派幹部は「タカ派の首相では9条改正を軸とする改憲実現は無理。ハト派の岸田氏のほうが国民の理解は得られやすい」と突き放した。

憲法改正への手続きは、①大政党が国会に具体的改憲案を提出、②各党も対案をまとめ、衆参両院の憲法審査会で審議、③衆参本会議でそれぞれ3分の2以上の賛成により改憲案として国会発議、④国民投票を実施し、過半数の賛成で改憲実現、というもの。

憲法審査会での各党協議から国会発議までには約1年、その後の国民投票から新憲法公布までにも約1年が見込まれるため、東京五輪が開催される2020年の改憲実現には今秋の臨時国会での本格審議開始が前提条件となる。仮に首相の任期満了(2021年9月)ぎりぎりの新憲法公布の場合でも、2019年秋の臨時国会には各党審議がスタートしていないと間に合わない。

首相が恐れる「亥年の悪夢の再来」

その場合、首相にとって最大の難関となるのが2019年夏の参院選だ。

今回改選となる6年前の自民党当選者は65人。しかし、2年前の参院選で圧勝した自民党の当選者は56人。今回の首相3選を受けて主要野党は「参院選1人区は統一候補で戦う」との方針を明確にしており、永田町では「自民党は頑張っても50議席台前半、下手をすれば50議席割れもあり得る」(選挙アナリスト)との見方が支配的だ。だからこそ、「総裁選の地方票での石破氏善戦に改選組の参院議員は震え上がった」(竹下派幹部)のだ。これが現実となれば参院での「改憲勢力3分の2」が失われるどころか、首相退陣論にも結び付きかねない。

ちなみに来年は亥年(いどし)で、12年に1度の参院選と統一地方選の同時実施となる。地方選は4月、参院選は7月が通例のため、これまでも地方議員の選挙疲れで自民党が苦戦するケースが多かった。

とくに、第1次安倍政権下で行われた前回2007年の参院選では、「消えた年金」問題に相次ぐ閣僚の不祥事が重なり、自民党は37議席と歴史的大敗を喫して首相は2カ月余りあとの9月に退陣に追い込まれた。このため、首相サイドでも「亥年の悪夢の再来」を恐れる声も少なくない。もちろん、これには共産党も含めた「野党統一候補」の擁立が前提で、「野党共闘は簡単にはいかない」(立憲民主幹部)ことから、2007年のような自民惨敗は想定しにくい。だが、早期改憲を目指す首相にとって、「越えがたい壁」(自民幹部)であることは間違いない。

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