ニッポン放送が守り切る災害時報道の大原則 社員が1人になってもラジオ放送は続ける

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――実際に巨大地震が発生した場合、ニッポン放送の現場はどう動くのでしょうか。

地震に限らず、たとえば有事の際なども同様ですが、その瞬間に最も大切なのは、アナウンサーが冷静に状況を伝えること。そのため、各スタジオの壁には緊急地震速報を受けた際に読み上げるコメントを掲示しています。まずは落ち着いて行動するようにリスナーへ呼びかけ、さらにスタジオ自体が「揺れた場合」と「揺れなかった場合」それぞれのケースに合わせたコメントを読み上げます。

365日24時間最低1人はアナウンサーが社内にいる

なお、ニッポン放送では365日24時間いつでも、最低1人はアナウンサーが社内にいるようにしています。土日は管理職者が宿直につき、何か難しい判断を迫られる場合も、迅速に対応できるよう配慮しています。

ニッポン放送社内のスタジオに掲示された、災害発生時のコメント。緊急地震速報をキャッチした後、実際に揺れた場合と揺れなかった場合に分けて内容が明記されている(写真:news Hack by Yahoo!ニュース)

――ニッポン放送では「タクシー防災レポーター制度」を採用していると聞きました。これはどのような制度でしょうか。

およそ25年前、携帯電話が世の中に登場したばかりの頃に作ったもので、街中を走るタクシーがその光景を伝えるだけでも、重要な情報になるのでは、という考えに基づいた制度です。事前に、提携するタクシー会社36社・37台の協力を得て、有事の際に伝えるべき内容についての講習会をドライバーさんに対して実施。レポーターとして稼働していただいています。東日本大震災の際も、街の状況を伝える上で大いに役立ちました。

ほかにも災害発生時には、東京と神奈川の私立・国立の中学・高校675校と提携し、学校単位での安否情報を収集。同様に、都内で働く人は230のビル単位で安否を確認し、その情報を放送しています。また、地域の理容店をネットワークし、店から見える光景や周辺状況を伝えてもらう取り組みも行っています。

――過去にはラジオ離れが進み、メディアとしての価値を問われる時期もあったかと思います。世の中に多彩なメディアやツールが存在するこの時代に、鳥谷さんはラジオの存在意義をどのように考えていますか。

数あるメディアの中でも、ラジオというのは唯一、“1対1”を強く意識したメディアです。大勢の方を対象とするのではなく、あくまで「あなた」に聴いてほしいとの思いが根底にある。実際、優れたパーソナリティはみな、1対1を意識した語り口であるのがわかります。そういう視点を持っているからこそ、本当に届けるべき情報を自分ごととして考え、タクシーや理容店に“街の情報網”として活躍してもらう発想が生まれるのだと思います。

被災者が本当に欲している情報は、当事者の視点に立たなければわかりません。リスナーのみなさんは、その地震がマグニチュードいくつであったかよりも、どこで食べ物が手に入るか、どこでお風呂に入れるのかを知りたがっているはず。これは有事に限らず、ラジオが常に意識しておかなければならないことでしょう。

(取材・文:友清 哲/編集:ノオト)

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