低迷する文学界が「異業種組」に注目する理由 映画「響-HIBIKI」が示唆する文芸の未来図
柳本光晴(やなもと・みつはる)の人気マンガ『響〜小説家になる方法〜』を原作とする映画『響 -HIBIKI』(監督:月川翔)が公開され、話題になっている。欅坂46の平手友梨奈が演じる十代の天才的な新人作家・鮎喰響(あくい・ひびき)が、処女作で芥川賞と直木賞を同時受賞してしまうという話である。
この映画の最大の見どころはなんといっても、響という特異で魅力的なキャラクターが活躍する場面だが、そのほかにも普段はうかがい知ることのできない出版業界の舞台裏が垣間見られる面白さがある。文芸誌の編集部とはどのようなところなのか。文学賞はどのようにして決まるのか。そして小説家として「デビュー」するにはどのような方法があるのか。そんな興味や好奇心にある程度まで応えてくれるのだ。
小説新人賞を経ないデビューも多い
たとえば、この物語では世界的ベストセラー作家である祖父江秋人(そぶえ・あきひと)の娘、凛夏(りか)が響と同時に「作家」としてデビューする。響は真正面から文芸誌の新人賞に応募(ただし規定を守らず手書きで投稿)するのだが、凛夏は親の七光りによって、新人賞を経ずにいきなり作家デビューしてしまう。
もちろんこの話は完全なフィクションであり、この業界の現実そのままではない。しかし現実に新人賞を経ずにデビューする小説家は多い。新人賞が「新卒入社」だとすれば、いわば「中途採用」のような異業種からの参入も、文芸の世界への入り口として用意されている。さらに親や親族が著名な小説家や思想家や翻訳者だったりする「二世作家」「三世作家」の存在は枚挙にいとまがない。
さらにこの作品が前提としている「小説があまり読まれない」「文芸書が売れない」という現象そのものは、まったく事実である。どの出版社もこの状況を突破してくれる圧倒的な新人作家を待望している。まさに鮎喰響のような天才を。
そうした現実を裏書きするような出来事が、今年は文芸の世界では相次いだ。
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