トヨタ「シエンタ」5人乗りが追加された事情 ルーフ塗り分け2トーンカラーが果たす役割

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初代シエンタが登場したのはこの直後なので、トヨタのオリジナルではないが、モビリオ~フリードやキューブが2列シートを並行して用意する中、トヨタは「ファンカーゴ」の後継として「ラクティス」を用意しており、シエンタは福祉車両を除き3列シート専用であり続けた。

2世代続いたラクティスは2016年に販売を終了し、代わりにトヨタグループのダイハツ工業が生産する「ルーミー」「タンク」に切り替わっている。

日産「ノート」の快進撃を止めたい

ではなぜ今回、シエンタに一般向けの2列シートが設定されたか。理由のひとつに前述のタクシーのような需要があり、一般ユーザーでも3列シートのミニバンにこだわる人が減りつつあることのほかに、日産「ノート」の快進撃を止めたいという気持ちがあるのではないかとも想像している。

ノートはシエンタよりも背が低い、いわゆるハッチバックのコンパクトカーだが、2600mmというクラス最長のホイールベースを生かしたキャビンの広さが自慢のひとつになっている。日産のニュースリリースによれば、販売の約7割は1.2L3気筒エンジンで発電機を回し、その電力で走行する「e-POWER」になっている。

2016年11月にこのe-POWERが投入されると、同月の新車乗用車販売台数ランキングで、日産車では「サニー」以来30年ぶりのトップを獲得した。するとトヨタは翌年、ライバルのヴィッツとアクアを相次いでマイナーチェンジ。ヴィッツには新たにハイブリッド車を設定した。それでもノートは何度か月間首位に立ち、年間では「プリウス」に続く2位につけた。そして今年上半期には、プリウスの人気が落ち着いてきたこともあり、ベストセラーになった。

ルーミー、タンクにはハイブリッド車はなく、アクアやヴィッツは改良を重ねているものの、ライバルを圧倒するには至っていない。一方のノートは広さと燃費の良さを生かし、近年はタクシーにも起用されている。シエンタへの2列シート追加は、こうした状況も関係しているのではないだろうか。

価格はノートやアクアに及ばないものの、3列シートより安い設定となり、ハイブリッド車のJC08モード燃費はリッター28.8kmと少し向上した。2750mmのロングホイールベースと1675mmの全高が生み出すキャビンは、5ナンバーの5人乗りとしてはかなり広い。

もちろん純粋な販売台数で言えば、登録車より軽自動車のほうが多い。こちらは全国軽自動車協会連合会の統計によると、ホンダ「N-BOX」が2015年から3年連続で年間最多台数をキープしており、安泰という状況だ。

しかしトヨタは登録車の分野で、「カローラ」が33年間にわたり販売台数首位を守り続け、2002年と2008年にホンダ「フィット」にその座を奪われたものの、それ以外はカローラやプリウスなどが頂点に立ち、現在に至っている。その座を守りたいという気持ちになるのは当然ではないかと思っている。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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