日米通商協議が難航しても株価は上昇する 「トランプ山」よりも大きなイノシシは出ない
実際、今回も、中国側の疑念が的中した。9月13日にトランプ大統領は、ツイッターで「ムニューシン報道は間違いだ」と述べ、結局14日もブルームバーグ通信が「トランプ大統領が側近に2000億ドルの中国製品の関税引き上げの準備を指示した」と報じ、一時アメリカの株価が下振れする局面があった。
共和党の中でも穏健派と強硬派が対立
こうした「ドタバタ劇」は、米政権内部が一枚岩ではないことから生じている。ムニューシン財務長官らは、米中で衝突するよりも「何らかの妥協を図った方がアメリカのためにもなる」といった、いわば「穏健派」だ。これに対してピーター・ナバロ国家通商会議委員長らは「対中強硬派」だと言える。これまで述べたのは、穏健派の動きがことごとく大統領にひっくり返された例だが、いつも穏健派が敗北していたわけではなく、5月の米中閣僚級協議では交渉の場からナバロ氏が外されるなど、穏健派が優勢なこともあった。
こうした穏健派と強硬派から異なる主張がなされるし、その両派のどちらの説に大統領が乗るかも、極めて不安定だ。結果として、「米政権(あるいは政権の有力閣僚)が○○という意向だ」と報じられ、それが事実でも、最終的にそうなるかどうかはわからない。また、穏健派と強硬派から、別々の方針が漏れ伝わるため、外から米政権をみていると、方針がどちらに向かうかが推し量りにくく、観測報道が流れるたびに、市場が短期的に一喜一憂する状況となっている。
意見の乖離は、米政権と米議会共和党の間でも存在する。米政権の閣僚に、対中関係においては通商問題より安全保障等を重視する向きもある。一方、トランプ大統領の関心は、今のところは「対中貿易赤字が縮小し、それがアメリカの雇用にプラスだとの印象(本当にそうなるかどうかは別として)が選挙民の間に広がること」にあるようだ。
しかし議会は、共和党ほどではないにせよ民主党もある程度、対中国での安全保障には関心が強い。たとえば「中国製の通信機器を使うと、情報が中国側に漏れる」という懸念は、共和・民主にかかわらず議会の方に強い。このため、ZTE(中興通訊)を巡る対応についても、トランプ政権と特に上院共和党の間で、意見の対立が生じたほどだ。
このような、米政権や議会共和党内部の状況を踏まえると、「あの閣僚がこう言った」「大統領の意向が既に報じられた内容と違う」「政権がこう言ったが次は議会がこう主張している」などと一喜一憂しても意味が薄く、「アメリカの通商問題はなるようにしかならない」と、長期的に腹をくくるしかなさそうだ。
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