館内の随所には南洋銅器、書画、陶器などのコレクションが飾られている。朝倉文夫は大変に多趣味な人で、このほかにも東洋蘭の栽培、ガラス器の蒐集、生け花、茶道、俳句、釣りなどを嗜んだ。
2階の「素心の間」は朝倉が茶道や生け花などの趣味を楽しんだ部屋だった。ここから中庭を見下ろすと、また違った趣がある。
さらに最上階である3階に上ると「朝陽の間」という大広間がある。中央に設えられている巨大な円卓は朝倉文夫自身のデザインよる折り畳み式のもので、片付けると部屋を広々と使うことができる。この部屋には、天井には伊豆の天城山の地中から掘り出された神代杉に杉皮の裏張り、床の間の床は松の一枚板など、特にぜいたくな木材が使われていて和風建築の奥深さを感じる。内座敷には砕いた赤瑪瑙(めのう)が塗り込んであり、渋い赤色に光る壁面は上品な風合いだ。
谷中を一望できる屋上も
屋上には小豆島から到来したというオリーブの木が巨大に育っている。ここではかつて朝倉の弟子たちによって農作物が育てられ、その目的は、自然を見る目を養うためだった。3階建ての屋上からは周辺の街並みや、遠くは東京スカイツリーまでを眺めることができて、谷中の町のなかなかの展望スペースとなっている(なお、雨天時は屋上には出られない)。
屋上から景色を楽しんだ後、最後に訪れるのが2階「蘭の間」だ。
朝倉は愛猫家でもあり、多いときには19匹の猫を飼っていたこともあるとか。生涯でも猫をテーマにした多くの作品を制作し、その作品のいくつかはこの「蘭の間」に展示されている。もともと東洋蘭を栽培するための温室で、蘭の鉢であふれていた。壁面の大きな円形の窓のほか天窓からも陽光が入り、床は排水のよい陶板タイル貼り。
館内全体を通して見ると、各部屋の壁は砂壁、藁壁など8〜9種類もの材料で塗り分けがされているほか、各部屋の障子の桟の形がすべて違うなど、見れば見るほど、朝倉のこの家に関しての細かなこだわりが発見できるという。
芸術家の住空間に向ける追求と、職人技の融合。何度訪ねても発見がある。それがこの館の奥深さであり、楽しみ方なのだと思えてくる。
(文中・敬称略)
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