将棋・羽生善治竜王が「弟子」をとらない理由 15歳で棋士に、師匠らとの思い出を告白

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——羽生先生は15歳で棋士になって、対局、対局で忙しい日々。将棋以外に青春の思い出はありますか?

私がプロになった頃は、まだ世間の雰囲気ものんびりしていました。そんなに活動が制限されていたわけではないです。10代後半の頃、対局が終わって先輩に連れられて普通に夜の新宿とか歩いていても大丈夫でしたよ。今なら補導されるか、連れていった人もペナルティですよね。今はいろんなものがタイトすぎる感じはします。

弟子をとらない理由

——羽生先生は基本的にお弟子をとらないということですが、ご自身が培(つちか)ってきたものを伝えたいという気持ちはないのでしょうか?

将棋の世界は、こう教えたから育つというものではない気がします。基本的に自分の力で強くなっていくものです。

また、私が培ってきたものを伝えることが、本当にその人にとってプラスになるのか。そのときは自分ではすごくいいものだと思うかもしれませんが、本質的に伝えられる人にとってプラスかどうかは、また別の話だと思うのです。

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——羽生先生が話されていることや著書の中で書かれていることは、とても哲学的に感じるのですが、普段からいろいろなことに思考をめぐらせているのでしょうか?

自分で特に意識しているわけではないです。以前は移動中に本を読んでいましたが、最近は飛行機に乗ったらすぐに寝てしまいます。何かを考えている時間より、どこでも寝られることのほうが、最近は大切です。

——たくさんの記録を残されてきましたが、いちばん誇りに思うものは何でしょうか?

それは「年間最多対局」(2000年に樹立した89局)ですね。米長(邦雄)先生の記録を超えたときは感慨深いものがありましたが、自分で誇りに思うというよりも、正直、疲れた〜という感じでした。いったいどれだけの時間対局室にいたのだろうと。

羽生善治は永世七冠を達成したときに、「将棋そのものを本質的にわかっていない」と語った。自らの記録は「通過点」であり、長く膨大な研究の一端にすぎないという。彼が弟子をとるとすれば、「将棋とは何なのか」、その答えに近づいたときかもしれない。
最後に、年間最多対局に触れたときだけ、少し自分を称えるように笑った。
野澤 亘伸 カメラマン/『師弟~棋士たち魂の伝承』著者

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のざわ ひろのぶ / Hironobu Nozawa

1968年栃木県生まれ。上智大学法学部法律学校卒業。1993年より写真週刊誌『FLASH』の専属カメラマンとして活動を開始。主に事件報道、スポーツ、芸能などを取材、撮影。同誌の年間スクープ賞を3度受賞。フリーとしてタレント写真集や雑誌表紙を多数撮影。小学生の頃からの将棋ファンで、著書『師弟 棋士たち魂の伝承』(2018年、光文社)と『少年時代に交わした二つの約束』(2019年、将棋世界)で第31回将棋ペンクラブ大賞を受賞した。ほかに海外取材をまとめた『この世界を知るための大事な質問』(2020年、宝島社)などがある。

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