塚原副会長、TV生出演に見たパワハラの温床 組織トップが使ってはいけない4つの言葉

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ここまで塚原副会長のコメントを挙げてきましたが、組織のトップや管理職が公の場で避けたいフレーズが大量に使われました。実際に使われたものを以下に挙げてみましょう。

「いろいろな」「たぶん」「おそらく」「もしかしたら」「あれっ?と」「ないでもない」

・具体的な受け答え避けることで、あいまいな印象を与えてしまう。

「たまたま」「ふっと出た」「言ったらしい」「わからないんですけど」「まったく想定外」「やっちゃった」

・説得力に欠けるほか、無責任さを感じさせて、信用を失ってしまう。

「われわれは」「なるほどね」「どこもそう」「僕、全然おかしくない」「とっても大変」「まったくない」「とんでもない」「私だけではない」

・自己主張や自己擁護の強さを感じさせ、相手の言葉を奪ってしまう。

「とにかく」「要するに」「けっきょく」「どの時代もそう」「あとづけ」「あーそうですか」「仕方ない」

・相手の話を聞かず断定的、否定的な印象を与えてしまう。

あいまい、無責任、自己主張、断定と否定。これら4つのフレーズは、自分より立場の低い人から「パワハラしそうな人」とみなされかねない危険なもの。程度の差はあれど、これらがパワハラを感じさせる温床となるものだけに、ビジネスシーンでは意識的に使わないようにしたいところです。

その他にも、今回の生出演で塚原副会長は、加藤さんらの言葉が終わる前に話しはじめたり、VTRやフリップの説明を待てずそわそわしたり、コミュニケーションの課題を感じさせるシーンが何度もありました。名選手であることに疑いの余地はないものの、「このコミュニケーション力で組織をまとめられるのだろうか?」という疑念を視聴者に与えたのは間違いありません。

パワハラ調査を待たず、12月での退任を宣言

塚原副会長は、最後に自身の進退について語りました。

まず「体操協会を一新してほしい」という宮川選手側の主張に対しては、「体操協会のガバナンスはしっかり行われていると思っていますし、私は来年6月で退くつもりでいます。引き継ぎがありますから実質12月くらい。メディアに出るのもこれが最後ですし、ずっと前から決めていました」と宣言。妻の塚原千恵子強化本部長も同じで、「『東京五輪まで』ではなく、この予選を最後の仕事としてやり遂げたかった」と明かしたのです。

思っていた以上の潔さであり、“塚原帝国”とは真逆の印象。一連の騒動で心変わりした可能性こそありますが、「もっと早く公言していれば、宮川選手側の言動も、塚原夫妻の印象も変わったのはないか」と悔やまれるところです。

ちなみに、「第三者委員会によるパワハラの調査は1カ月半~2カ月かかる」と言われているだけに、結果が出るのは10月下旬~11月中旬。ちょうど東京五輪の出場権を賭けた世界選手権(10月25日~11月3日)が行われている時期だけに、やはり塚原夫妻は参加できないことが確実となりました。

最後に塚原副会長はこの日一番の力強い声で、「体操っていうのは技を楽しむ世界。自分の可能性を追求したり、そこで発見して、自分を知る世界でもあるんですよ。長い時間をかけて技ができた瞬間の感動が至福の喜びで、その選手だけじゃなくて周りのコーチや選手など体育館で拍手が起きるんです」「暴力とは無縁の世界が体操競技の世界ですから」「金メダルを獲るには金メダルを獲る訓練や環境が必要です」と感極まった表情で語りました。

体操を愛する心に偽りはないことは伝わってきましたが、今回の生出演は決してプラスにはならないでしょう。速見コーチの謝罪会見が行われ、暴力の映像が流出した9月5日以来、それまで「宮川選手一色」だったムードが「どっちもどっち」に変わりつつありましたが、再び世論が変わるかもしれません。前回のコラムでも書いた通り、賢明なビジネスパーソンのみなさんは、安易に善悪を決め付けてSNSなどで発信しないようにしたいところです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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