星野リゾート新業態「OMO」が直面する試練 東京・大塚で都市観光のモデルをつくれるか
野部さんは昨年秋、新規ブランドOMOのスタッフ社内公募に手を挙げ、「OMO5 東京大塚」の開業準備メンバーに加わった。これまで星野リゾート社員として「リゾナーレ熱海」(静岡県熱海市)とグループ人事を経験してきた野部さんだが、「ゼロから立ち上げる新たなホテルブランドで、既存の枠にとらわれない挑戦をしてみたいと思ったから」とOMOを希望した理由を語る。
その年の12月、野部さんを含む6人の先発メンバーが大塚に異動してきた。当時、「都市観光に特化したホテルをつくる」ことだけが決まっていたものの、それ以外は何もない状態だったという。6人はホテルのコンセプトや運営方法を話し合い、ゼロから作り上げていった。
星野代表が議論に加わることもあった。だからといって、星野代表の意見が絶対ではない。もちろん、総支配人の意見が必ずしも通るわけでもない。「誰が言ったかではなく、説得力のある意見が採用される環境が大事」と星野代表が常々話すように、誰もが自由に意見を戦わせ正しい議論ができるフラットな環境は、星野リゾートが最も大切にしてきた組織文化である。
「フラットな組織だからこそ、誰からも指示がないんです」と野部さん。「あれば楽だと思います、それに従えばいいわけですから。でも、私たちの組織はそうではありません。自分たちで考えるからこそ、決定事項に対して納得感を持って動くことができます。それに、自分たちで決めたことには責任を持ちたい。だから、やり切ってみようと思えるのかもしれません」。
客の要望を一切聞かない街ガイド
宿泊客を大塚の街へ連れ出し、徒歩圏内でガイド本に載っていないような穴場や魅力的な場所へ案内してくれるのが「ご近所専隊OMOレンジャー」である。このサービスも、メンバーのフラットな議論から生まれた。はしご酒、グルメ、ナイトタイムなど5つのコースがあり、案内役はホテルの全スタッフが交代で務める。ちなみにお酒好きの野部さんが得意とするのは、アフター5のエンタメスポットや酒場めぐりだ。
名物女将が切り盛りする蕎麦屋、愉快な常連たちが集まる居酒屋、ディープなエンターテインメントスポット……。どれもみな、開業までの数カ月間で、スタッフが足を使って探し出してきた大塚の魅力である。
「全国各地から集まった先発メンバーは、誰も大塚になじみがなかったので、お店を飛び込みで訪ねたり、図書館で大塚の街の歴史を調べたりして情報を収集しました。そのうち大塚の重鎮と呼ばれる人たちと知り合うことができて、地元の方々とのつながりが広がっていったのです。全部で100軒以上まわりました。皆さん、『ホテルと街を1つのリゾートと考え、大塚の魅力を発信していきたい』という私たちの思いを好意的に受け止めてくださいました」と野部さんは話す。
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