星野リゾート新業態「OMO」が直面する試練 東京・大塚で都市観光のモデルをつくれるか

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こうした斬新な施策に対して、「お客様からはネガティブな意見もいただいています」とスタッフの野部洋平さんは明かす。「部屋着にお金を取るの?」「チェックインは対面でしてほしい」――。こうした声は、宿泊客を対象に行う顧客満足度調査でもマイナスに出るという。「お客様がこうおっしゃるなら、部屋着は備え付けたほうがいいんじゃない?」とスタッフの心も揺れ始める。

一方で、こう主張するスタッフもいた。「部屋着を置かないのは、観光に特化したホテルブランドとして、必要なお客様に必要なものだけを提供したいという自分たちの考えのもとにやっていること。まだあきらめるのは早いんじゃないかな」。

成果が出るまでには時間がかかる

思うような結果が出ないとき、このまま続けるべきかどうかは悩むところだ。業績へのプレッシャーを感じれば感じるほど、この方向性は間違っているのではないかとつい弱音を吐きたくなる。

拙著『トップも知らない星野リゾート~「フラットな組織文化」で社員が勝手に動き出す』でも詳しくまとめているが、星野リゾートにおいて結果を生んだサービスの裏には、必ずやり切ったスタッフがいる。たとえば青森県の「奥入瀬渓流ホテル」には、苔を観察しながら奥入瀬渓流を散策する「苔さんぽ」というアクティビティがある。今ではホテルの代名詞となった苔さんぽも、顧客に認知されて人気プログラムに成長するまで2年以上かかった。星野代表は以前の取材でこう答えている。

「観光で成果が出るには時間がかかります。サービスがお客様に認知され、実際に売り上げやホテルの稼働に結び付くまでに3年くらいは続けなければなりません。結果が出ないのは、仮説が間違っているか、やり切っていないかのどちらかです」

滞在着レンタルや自動チェックインが顧客に受け入れられていないのは、「OMOブランドを通して伝えたい思いがまだちゃんと伝えられていないから」と野部さんは考える。

「OMO5 東京大塚」では、サービスの一部を簡素化し、全125室をわずか19人のスタッフで運営する効率化を成し遂げたことで、宿泊費を既存ブランドに比べてかなりリーズナブルに抑えている。「まずは、私たちの思いを伝えられるよう、自分たちが設計したことをやり切ってみようと思います」と野部さんは話す。

とはいえ、やり抜くことが大事だと頭では理解していても、新しい挑戦には答えがないからこそ、不安を感じることもあるものだ。野部さんたちの「やり抜こうとする強い意志」は、いったいどこから生まれてくるのだろうか。そのヒントは、彼らが「OMO5 東京大塚」のコンセプトや運営方法を練り上げていったプロセスに見ることができた。

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