誰もが知っておきたい「乳がん診断」の最先端 治療法は日進月歩で進化している

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組織診検査の場合、一度に採取された組織で複数枚のガラススライド標本を作製できる。細胞は基本的に無色であるため染色を施し顕微鏡で観察できるようにするが、形態を観察するための通常の染色以外に、後述する免疫染色標本を作製し、詳しくがんの性質について検査することができる。

乳がんの治療は、肺がんと並び、がんの中で最も進んでいるといえるのではないだろうか。欧米の乳がん患者が非常に多いこともあり、乳がんの研究は日進月歩である。

乳がんに限らずがん診療にかかわる医師は、つねに学び続ける姿勢がなければ、あっという間についていけなくなるほどである。特に薬物療法においては、新薬が次々に開発されている。

分子標的治療薬という抗がん剤がある。特定のがん細胞だけが持っている分子(物質)を標的にした治療薬である。通常、抗がん剤治療は、細胞が分裂するときに作用する薬で、がん細胞だけでなく正常の細胞もダメージを受ける。がん細胞のほうが分裂するスピードが速いために、よりがん細胞のほうに抗がん剤が効くというわけである。

分子標的治療薬はがん細胞のみに作用するために副作用が少ないという利点がある。特に「トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)」は、乳がん治療を大きく変えてきた分子標的治療薬である。

最近はがんの性質をより詳しく調べる

今まで予後不良であった悪性度の高い乳がんで、HER2タンパクという細胞増殖にかかわる物質を持っているタイプの乳がんは、このトラスツズマブが劇的に効き、がんを克服する患者が増えてきた。このトラスツズマブをはじめとして現在ではさまざまな種類の新しい抗がん剤が開発されている。

病理医は、乳がんがこのHER2タンパクを持っているかどうかなど、さまざまな乳がんの性質を調べ、病理診断を行っている。病理医は、そこまで詳細な検査を行ったうえでの病理診断を求められている。近年は、乳がんに限らず肺がんをはじめとしたさまざまながんで次々と分子標的治療薬や免疫療法薬が誕生し、その薬剤の効果を予測するための病理検査が増加している。

病理医にとって、乳がんをはじめとしたがんの病理診断は、難易度も高く、また労力もかかるようになっている。

今までのがんの病理診断は、顕微鏡でがん細胞の形態を観察し、こういう形態のがんですよ、おそらく悪性度はこのくらいですよ、という「組織型」や「分化度」の程度を判定すればよかった。しかし、最近は形態的な特徴による診断に加え、がんの性質をより詳しく調べることが求められる。

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