愚かな人類が滅んでいないたった1つの理由 何が起こるかは分からないが学ぶ過去はある
また、アメリカは2003年3月、大量破壊兵器の保有を理由にイラク戦争を始め、フセイン政権を倒して占領します(フランスは強く反対。結局、大量破壊兵器は見つかりませんでした)。そして2004年6月には、反フセインであったシーア派主体の暫定政権を立ち上げますが、スンナ派が反発し、イラクは内戦状態に陥りました。そしてようやくイラクが安定に向かうかと思われた矢先、鬼っ子ともいうべき新たな無法集団ISIL(自称イスラム国)が2006年ごろから活動を開始しました。アメリカなどによる空爆のために現在は一時ほどの権勢は失ったものの、その勢力はイラクばかりかシリアにまで及びました。
続いて2008年9月、アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻に端を発した世界的な金融危機が世界を襲います(リーマン・ショック)。2007年のアメリカのサブプライムローン問題(住宅バブル崩壊)から、金融の世界には黄信号が点っていましたが、リーマンの破綻は、すわ第2次世界恐慌の到来かと騒がれました。
しかし、アメリカが公的資金の大量投入をためらわず、また世界のGDPの約90%を占めるG20(主要20カ国財務大臣・中央銀行総裁会議。1999年創設)に代表される国際的な枠組みが機能したため、大恐慌の再来は回避できました。なお、2008年からG20は金融・世界経済に関する首脳会合(金融サミット)をも開催するようになり、G7の役割は低下しました。
直接の因果関係はなくても大きい事件は起こりうる
そして2011年3月、東日本大震災が日本を襲いました。世界でもまれな規模の大自然災害でした。アメリカ同時多発テロ事件もリーマン・ショックも東日本大震災も、すべて想定外の出来事でした。けれども、それらは決して起こりえないことではなかったと思います。原因があって結果があるという、直接の因果関係で歴史は説かれがちなのですが(地球が寒くなって遊牧民の移動が始まったなど)、必ずしもそればかりではなく、直接の因果関係はなくても大きい事件は起こりうると最近は考えられています。カオス理論がその典型です。
「ブラジルで一匹の蝶が羽ばたくと、テキサスで竜巻が起こる」(バタフライ効果)
など、直接的な関係がないように見えるちょっとしたできごとでも、それが積み重なって重大事件になりうる、その可能性を認めるという考え方が、自然科学ではすでに確立しています。人間の世界は、おそらく自然界よりも複雑です。直接の因果関係だけでは、説明しきれないことがたくさんあります。
2010年から2012年にかけてアラブの春と呼ばれた一連の民主化運動が、中東・北アフリカで連続して起きました。チュニジアのジャスミン革命に始まり、2011年エジプト革命に代表される政変でした。これらの政変は、長期独裁政権に対する反対運動だったといえば簡単です。しかし引き金となったのは、先進国の金融緩和による過剰流動性によって、発展途上国のインフレが激化し、パンをはじめとする多くの日常品が値上がりしたからです。
しかも、反体制運動が恐るべきスピードで広がっていったのは、インターネット技術があったからでした。昔のデモの動員であれば、リーダーの隠れ家に集まって、おまえは10人連れてこい、などと人をかき集めて初めてデモ隊が組織的に出現したのです。でもいまは、明日夕刻6時、カイロの広場でパン値上げ反対のデモをやる、とインターネット(SNS)に投稿すれば瞬時に人は集まります。
しかもアラブの春の場合、他の国々の反体制運動の進展具合も、インターネットでみんなが共有していたので勇気百倍だったことでしょう。アラブの春は、パンの値上がりも、団結の武器となったインターネットも、すべてアメリカ発であったという皮肉がささやかれたりしています。
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