ユンファの突然の降板や、国際混成チームをまとめるのに苦労した--映画『レッドクリフ』プロデューサー=テレンス・チャン

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歴史小説『三国志』の人気エピソード「赤壁の戦い」を題材にした映画、『レッドクリフ』(現在公開中)。監督のジョン・ウー氏とプロデューサーのテレンス・チャン氏に三国志や映画制作への思いを聞いた。第2回目はテレンス・チャン氏。


--三国志への思いは?

小さいころから三国志は好きでしたよ。三国志をテーマにしたテレビドラマなども見ていましたし。

個人的には大河ドラマのような物語よりも現代物語が好きです。でも、ジョン・ウーが「レッドクリフ」を撮りたいと言い出したときには、全力をあげて彼をサポートしようと思いました。

彼は香港にいたころから三国志を撮りたいとずっと言っていました。でも三国志を撮るということはそんなに簡単なことではなくて、当時はCGなどの技術もまだ登場したかしていないかいうぐらいの時期で、しかも資金もないし、ロケ地の候補になり得る場所もない。彼がそう言っていても、私は本気にしなかった。

ハリウッドへ行ってから、もう十数年がたちます。その間、ジョン・ウーはインタビューで、「次はどんな映画をつくりたいですか」と聞かれるたびに必ず三国志を撮りたいとずっと話していた。その後、彼がハリウッドで成功すると、映画会社からのオファーというと、大体『M:I-2』みたいなアクションものばかりでね、本人はもうあきてしまった。

それで、2004年になって彼は「やはり三国志が撮りたい」と言い出した。そうなると、私も本気になって、北京に飛んでいって、まず資金集めから始めたんです。

--なぜハリウッド資本を入れなかったのですか。

まずコロンビア(大手のアメリカの映画会社)と話しました。でも彼らのリクエストは2つほど受け入れられない部分があって、結局まとまらなかった。一つは、アメリカ人の三国志に対する理解はあまりできなくて、「登場人物はこんなにたくさんいらない。劉備、張飛、関羽を一人にまとめてくれないか」とか、「一対一の対決にできないか」とか。これでは三国志にならない。

それから中国での配給を、コロンビアは「中国の映画会社に任せる」と言ったんです。その映画会社がたまたま中国側のパートナーでもあったわけで、それならハリウッドを通して中国に持っていくよりも、中国の映画会社と直接組んで、中国の国内の配給は中国の映画会社に任せて、中国以外の世界的な配給は自前でやってしまおうという結論に至ったんです。

--映画が完成するまでに、ジョン・ウー監督も自分の私財を10億円つぎ込んだとかいう話を聞いていますが、チャンさんが今回一番苦労したのはなんですか。

まず資金集めですね。それから配給の問題。中国側は、国内の配給は一応押さえたのですが、世界中の配給を全部自分でやらないといけないという忙しさはありました。

役者の突然の降板も痛かった。特に主役(周瑜)を予定していたチョウ・ユンファがクランクインの初日に、「自分はおりたい」と言い出して、これは大きなショックだった。

さらにスタッフの面でも、中国人だけではなくて、アメリカ人もいれば、日本人もいるし、イタリア人もいるし、本当に国連のような混成チームなので、どうやってコミュニケーションをとるか、結構苦労しましたね。

あとは、映画の撮影につきものですが、アクシデントとか天候不順とか、だれかがけがをしたりとか。私自身のギャラが全部消えてしまうぐらい予算オーバーした。そういうことを振り返ると、やっとここまでたどりついて、ほっとしています。

--映画にチャンさんのアイデアが 反映されることはあるのですか。

私は自分のアイデアを映画に加えることはしません。さっき申し上げたように全力を挙げてジョン・ウーをサポートするということが私の出発点ですから。

ただ、プロデューサーとしては、監督は時々一線を越えてしまうようなアイデアを出すことがありますので、そういうときには、ブレーキの役割が必要です。「これはちょっとオーバーじゃないの」と話したりはします。もちろん彼が納得しないときもあるし、怒ったりもする。でも、やはりお互いに長年のパートナーなので、大体はまとまります。

--三国志のキャラクターの中で一番好きな方はだれですか。

曹操ですね。非常に立体感のある人物というか、複雑な人物でもある。具体的に言うと、当然野心家です。自分の力で中国を統一しようという面もあるし、結構残酷な側面もあります。ただ、一方で非常に優しい父親でもあったし、彼自身もいろいろな才能があった。詩をつくることが上手で、絵をかくことも上手だった。

一方で、才能のある人を非常に大事にするという側面があります。だから、今回の三国志の中でも、周瑜と諸葛孔明は、彼のこういった弱点を利用したわけですね。才能のある人を送り込んで、逆に曹操の心をコントロールしたわけです。

諸葛孔明は野心家で、謀略家で、歴史の本を読むと、彼はその後、協力した後、孫権を殺そうとしたわけですね。そういうところはちょっと偽善的ではないかなと。

曹操は、自分は野心家であると公言している。私は中国を統一したい、自分は例えば悪役とされても、こういうことはやり遂げてみせるということを堂々と言うわけで、そういう自分を飾らない、ありのままをさらけ出すというところは、諸葛孔明よりはよいかもしれない。

--ジョン・ウー監督以外と組まれることもありますが、将来はどんな映画をプロデュースしたいですか。

例えば今回の『レッドクリフ』もそうですが、中国映画とかハリウッド映画だという枠にとらわれずに、私が目指したいものはアジア映画ですね。アジアを一つのまとまりとして考えていきたいと思います。

(撮影:引地信彦)


(C)2008 Three Kingdoms Ltd. (C)Bai Xiaoyan
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