トルコリラ暴落後の「大惨事」はありえるのか 危険を知らせる市場のカナリアかもしれない

拡大
縮小

こうしたQE(量的緩和)からQT(金融引き締め)への動きは、世界の金融市場から1兆4000億ドル(154兆円)の流動性を消滅させるという試算もある。

これらが、トルコリラ暴落による金融危機の導火線になる可能性も否定できない。実際に、昨年末に比べて40%以上下落したトルコリラを筆頭に、35%程度下落しているアルゼンチンペソ、さらに10~20%程度下落したロシアンルーブル、ブラジルレアル、南アフリカランドなどなど。新興国通貨が売られてドルが買われた。新興国からマネーが逃避しようとしているわけだ。

実際、フランス、イタリア、スペインに加えて中国や南アフリカ、そしてトルコなど新興国を合わせた株式の時価総額は、トルコショックが起きた1週間で5406億ドル(59兆円)減少したといわれる。

④米国と中国の覇権争いが招いた通貨危機

一方、今回のトルコショックはトランプ米大統領が、意図的に引き起こしたものだとする見方もある。アルミニウムや鉄鋼といったトルコからの輸入品関税を2倍にしたことが、トルコリラ暴落のきっかけになったとみる投資家も少なくない。

現在、中国とアメリカは貿易戦争の真っただ中だが、その背景には次世代高速通信「5G」の覇権争いもある。次期携帯電話のプラットホームとなる5Gの開発は、中国が主導権を握りつつあり、それに気がついたアメリカが中国の覇権に待ったをかけている。

実際に、アメリカに次いでオーストラリアも中国の通信機器メーカー Huawei(華為技術)と ZTE(中興通訊)のオーストラリアでの市場参入を認可しないことを表明している。 トルコショックは、トルコに近づく中国に対してアメリカが牽制した代理戦争とも言える。

自由貿易、自由市場を信条としてきたアメリカだが、トランプ政権になってからは手のひらを返して正反対の方向に舵を取っている。1930年代の貿易戦争の行き着く先は、第2次世界大戦でしかなかったのだが、今後地政学リスクの高まりが懸念される。

トルコ向け投資、回復しなければ第2の通貨危機?

さて、問題はこれからどうなるかだ。信用リスクを取引する「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」市場で、トルコのソブリン債の保証料率が急騰して、2009年以降で最高水準になっている。

とはいえ、現在のCDSスプレッドの水準は最大5.42%(8月13日)で、危機の目安といわれる400ベーシスポイント(4.0%)は超えているものの、8月28日現在で4.79%に下げてきた。トルコ危機が、世界中の金融システムを危機に陥れるような段階までは達していないと言っていいだろう。

その一方で、トルコの通貨危機は今後も継続していくことが予想される。アメリカの格付け会社であるS&P・グローバルレーティングス、ムーディーズ、そしてイギリスの格付け会社フィッチも、トルコの外貨建て長期債務格付けを「投機的格付け」にまで引き下げており、トルコ経済が崖っぷちであることに変わりはない。

エルドアン大統領が、中央銀行に対して流動性の確保を認め、金利の引き上げなどによるインフレ対策をきちんとしていかないと、再びトルコリラが売られる場面があるかもしれない。その時に、 中国やロシアがトルコに資金援助などをすることが考えられる。

今回のトルコショックの背景には、米ドルの独歩高とトランプ大統領の推進するアメリカ第一主義政策なるものがあることは間違いない。おそらくこの政策は、11月の中間選挙の結果が出るまで続くことになるはずだ。ひょっとしたら11月の中間選挙の結果次第では、こうした傾向がさらに強まることも考えられる。

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