オウム真理教は幹部死刑執行でも終わらない 後継団体の不気味な動きや海外での摘発も

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ロシアの捜査当局によると、モスクワとサンクトペテルブルクでは2011年前後からロシア人信者の手で密かに教団が再結成され、かなりの勢いで増加し組織化されていたという。当局が内偵捜査を進めた結果、2012~2014年にはインターネットを通じて教団が多額の資金を集めていたことも判明。信者による集会なども増えてきたため、この日の強制捜査につながったという。

また、旧ユーゴスラビアのモンテネグロでは2016年3月下旬、日本人4人を含むオウム真理教と見られる信者58人が警察当局に身柄を拘束された。これについて、モンテネグロ内務省は3月29日、拘束したのは「外国の閉鎖的な宗教集団」と関係がある日本人4人を含む外国人58人だったと発表し、事実関係を認めた。

日本人以外の54人はロシアを含む独立国家共同体(CIS)諸国の出身者だったといい、ロシア内務省はそのうち44人がオウム真理教のロシア人信者および関係者だったと見て捜査を進めている。

モンテネグロを管轄する在セルビア日本大使館によると、日本人はいずれも男性で、50代が1人、40代が2人、30代が1人。滞在目的が申告した観光と違い布教活動だったため、首都ポドゴリツァで身柄を一時拘束され、出国命令を受けたという。

モンテネグロ警察当局は3月25日、ポドゴリツァと北方にあるダニロフグラードのホテルなど2カ所を捜索。計58人を一時拘束し、パソコンなど多数の電子機器類などを押収した。

ダニロフグラードのホテルで拘束されたCISの信者たちはノートパソコンを通じて、教祖の麻原彰晃の説法を聞いていたようである。

なぜ今、死刑を執行したのか

最後に「なぜ今、死刑を執行したのか」という読者の素朴な問いに答えよう。

法務省は「平成で起きた事件だから平成で終わらせたい」と言っているが、それが本心なら、刑事訴訟法で《執行命令は判決確定から6カ月以内》と定められているのに、収容中の死刑確定囚が110人に上るという事実をどう説明するのだろうか。

「この機会を逃すと、自民党総裁選後の新政権の法相人事次第で死刑が執行できなくなる可能性がある。今年後半から天皇即位関連の行事・式典が目白押しで、再来年は東京五輪だから、執行するなら今しかない」(法務省幹部)というのが表向きの理由だ。しかし、そこには何らかのウラ事情が隠されているのではないだろうか。

豊かな社会に生まれ育ち、一流大学を出たエリート層の若者たちがなぜ、カルト教団に入信し、殺人や無差別テロに手を染めたのか?

『オウム真理教事件とは何だったのか?――麻原彰晃の正体と封印された闇社会』(PHP新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

犯罪心理学者らはさまざまな見解を示しているが、私は、高度経済成長が終わってバブルが崩壊し、世の中に利己主義が蔓延するなかで、若者たち、特に将来を期待されるエリートたちの孤独感が増し、将来不安が広がったことに原因があるような気がしてならない。

そして今も、それら懸念材料はなくなってはおらず、オウム真理教を増大させた社会の「病」は拡大こそすれ、消え去ることはない。

「麻原は悪い奴だから処刑して当然」という庶民の気持ちはよくわかるが、報復的な処罰感情は新たな差別と処罰の論理を生み、終わりなき暴力連鎖に発展する危険性がある。

これまでも死刑執行が政治的に利用された事例はいくつか見られるが、麻原の遺骨の神格化や遺体埋葬場所の聖地化を許さないことはもちろんだが、庶民が処罰依存症を深めることをよしとしてはならない。けっして麻原の処刑で、すべてが終わったわけではないのだ。

一橋 文哉 フリージャーナリスト

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いちはし ふみや / Fumiya Ichihashi

東京都生まれ。早稲田大学卒業後、全国紙・雑誌記者を経てフリージャーナリスト。1995年、「ドキュメント『かい人21面相』の正体」でデビュー。グリコ・森永事件、3億円強奪事件、宮崎勤事件、オウム真理教事件など殺人・未解決事件や闇社会が絡んだ経済犯罪をテーマにしたノンフィクション作品を手掛けている。著書に『三億円事件』『ヤミに消えた怪人――グリコ・森永事件の真相』『オウム帝国の正体』(以上、新潮文庫)、『世田谷一家殺人事件』『最終増補版 餃子の王将社長殺人事件』(以上、角川文庫)などがある。

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