最悪の状況から「最高の音楽」が生まれた神秘 キース・ジャレットの「ケルン・コンサート」

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

キース・ジャレットも、この時、心身ともに疲労困憊、ピアノも最悪という状況ですから、公演中止にしたかったでしょう。 しかし、1400席のチケットは完売。ECMレコードは機材をそろえて実況録音の準備を整えています。

結局、この公演は予定どおり行われました。その模様を収録したのが、「ケルン・コンサート」(The Köln Concert)です。

ここには、1975年1月24日(金)の23:30から1時間余、ケルンのオペラハウスにだけ存在した音楽がありのままに刻まれています。まさに一期一会です。最初の10秒を聴くだけで、その美しさに飲み込まれてしまいます。ため息が出ます。そして、その後に続く音楽的な飛躍は圧倒的です。音楽を聴く歓びを実感し、何度聴いても新しい発見があります。

想定外の状況から最高のものが生まれることがある

即興演奏だった「ケルン・コンサート」も今や楽譜に起こしてあります。要するにピアノ独奏曲というわけです。機会があれば実際に弾いてみて下さい。何もないところからこの大曲が完全な即興で創られたことの凄さを感じるでしょう。しかも、睡魔に襲われ体調不良でピアノも劣悪だったのにです。

音楽の女神がキースの指を通して旋律を人間界に伝えるなどと言えば、余りにスピリチュアルです。が、創造の瞬間の神秘は確かにありそうです。が、それを表す言葉をうまく見つけられません。

たとえば、アルキメデスは風呂に浸かってる時に浮力の原理を思いついて、「ユーレイカ!」と叫んだそうです。ニュートンは林檎が木から落ちるのを眺めていて万有引力が閃いたわけです。 そして、キース・ジャレットは最悪の状況での即興演奏で美しき楽園を綴る「ケルン・コンサート」を生みました。

ここに人生の不思議があります。想定外の状況から最高のものが生まれることがあるのです。

小栗 勘太郎 音楽愛好家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おぐり かんたろう / Kantaro Oguri

1958年生まれ。東京外国語大学卒。米国滞在7年余。音楽愛好家。ポップ、ロック、ソウル、ジャズ、映画音楽からクラシックまで幅広く聴く。現在、 西日本新聞に「音楽プラスα」、毎日フォーラムに「歴史の中の音楽」を連載中。著書に『音楽ダイアリー SIDE A』『音楽ダイアリー SIDE B』(いずれも西日本新聞社刊)。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事