キース・ジャレットも、この時、心身ともに疲労困憊、ピアノも最悪という状況ですから、公演中止にしたかったでしょう。 しかし、1400席のチケットは完売。ECMレコードは機材をそろえて実況録音の準備を整えています。
結局、この公演は予定どおり行われました。その模様を収録したのが、「ケルン・コンサート」(The Köln Concert)です。
ここには、1975年1月24日(金)の23:30から1時間余、ケルンのオペラハウスにだけ存在した音楽がありのままに刻まれています。まさに一期一会です。最初の10秒を聴くだけで、その美しさに飲み込まれてしまいます。ため息が出ます。そして、その後に続く音楽的な飛躍は圧倒的です。音楽を聴く歓びを実感し、何度聴いても新しい発見があります。
想定外の状況から最高のものが生まれることがある
即興演奏だった「ケルン・コンサート」も今や楽譜に起こしてあります。要するにピアノ独奏曲というわけです。機会があれば実際に弾いてみて下さい。何もないところからこの大曲が完全な即興で創られたことの凄さを感じるでしょう。しかも、睡魔に襲われ体調不良でピアノも劣悪だったのにです。
音楽の女神がキースの指を通して旋律を人間界に伝えるなどと言えば、余りにスピリチュアルです。が、創造の瞬間の神秘は確かにありそうです。が、それを表す言葉をうまく見つけられません。
たとえば、アルキメデスは風呂に浸かってる時に浮力の原理を思いついて、「ユーレイカ!」と叫んだそうです。ニュートンは林檎が木から落ちるのを眺めていて万有引力が閃いたわけです。 そして、キース・ジャレットは最悪の状況での即興演奏で美しき楽園を綴る「ケルン・コンサート」を生みました。
ここに人生の不思議があります。想定外の状況から最高のものが生まれることがあるのです。
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