そしてグラス類も今回の食事会で使われているものとは違い、木村硝子店のものだそう。木村硝子店のワイングラスは口当たりの良さが抜きん出ており、私も前から欲しいと思っていたのだが、大変薄くて繊細なため、買うのをためらっていた。それを揺れる車内で使用するとは潔い。
「四季島はサスペンションが効いているので、従来の寝台列車より揺れない構造になっています。揺れる箇所は特殊なコースターを使って対応しております」
そう微笑む四季島のクルーは、運行の1年~1年半前から四季島専用のクルーとして雇用され、特別な訓練を受けているらしい。上質感と本物のサービスを提供している四季島ならではだと思った。
食事が終わる頃、木住野佳子さんのピアノ演奏が始まった。実際に四季島で演奏される際は、車内に持ち込まれた精巧な電子ピアノでの演奏だそう。豪華な食事と優美な音、上質なサービスに包まれ、まだ乗ったことのない四季島にぐんと近づけた気がした。
ハード面(車両)については以前から報道などでよく見かけていたが、ソフトの面については今回初めて知ることが多かった四季島。移りゆく日本の四季や時間を味わい、その土地の歴史や伝統を感じる、最高級の車両で最高級のおもてなし。それが四季島に乗車するということなのだ。一度乗車を体験してから、再び申し込みをする参加者が多いのもうなずける。
ちなみに来年度からは総料理長が岩崎さんから、現在東京ステーションホテルの副総料理長を務める佐藤滋さんに替わる。
あこがれの姨捨駅「夜景ラウンジ」
翌日、私はたまたま上野駅近くで取材をしており、昨夜の食事会の余韻からか、13.5番線ホームを見に行こうという気になり、訪れてみた。するとなんと、ホームに四季島が停まっているではないか! 時刻表もまったく知らずにきたので、この偶然の出会いに本当に驚いた。もしかしたら私が乗車できる日も近いのかもしれない。本気でそんな予感がしてきた。
ところで、篠ノ井線の姨捨(おばすて)駅には四季島専用の夜景バーラウンジ「更級(さらしな)の月」が建てられている。通常は閉まっていて明かりも点いていないのだが、ここは四季島のコースのひとつ。この駅に四季島が停車する時は、しばしこのバーでお酒を飲みながら、目の前に広がる善光寺平の素晴らしい夜景を楽しめるのである。
この扉の向こう、四季島専用バーラウンジでグラスを通して見る景色は、さぞかし違って見えるのだろう――。青春18きっぷで姨捨駅までやってきた私は、バーラウンジの建物を見上げながらそう思った。一度でいいから、四季島でスイッチバックを体験してみたいものである。
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