43歳で旅立った障害者の兄との「微妙な関係」 愛情と暴力が共存していた

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私たちのきょうだい関係は複雑だった(写真:izzzy71/iStock)

兄のアランが43歳で突然死亡したとき、一般的なお悔やみの言葉のほかに、普通とは違う言葉もいくつかかけられた。ある友人はこんなメッセージを送ってきた。「あなたの肩の荷が下りて本当によかった」。別の友人は私をハグし、「ついに安らぎを得られるといいね」と言った。

友人たちは、兄の死で安堵がもたらされ、彼が若くして亡くなったことは結果的にはよかったのだろうと考えたのだ。

兄は大人の体をした5歳児のようだった

心の奥底では、彼らは普通とは違う家族の死を理解しようとしていた。アランは普通の兄ではなく、私たちのきょうだい関係も普通ではなかった。私と兄の関係には、相反する気持ちが混在していた。あふれるほどの愛情、恐れ、共感、恥ずかしさ、感謝、そして怒りもあった。そのため、兄の死は一般的なケースとは異なり、受け入れやすいだろうと友人たちは推測した。

兄は大人の体をした5歳児のようだった。生まれながら遺伝的異常により認知的遅れ、過食、発語の不明瞭さを抱え、気分のむらが激しく、突然暴力的になった。

アランが「プラダーウイリー症候群」という、15番染色体の異常による知的障害があると診断されたのは30代に入ってからだ。母は、兄にはほかにも問題があると思っていた。生まれたときお尻が下になった状態の逆子で、へその緒が首に巻きついていており、それで脳に障害が残ったのだろうというのが母の考えだった。アランは弱々しい赤ちゃんで、泣かなかったという。

アランからはつねに目が離せなかった。1人にしておくと吐くまで食べた。ゴミ箱の食べ物も食べてしまう。ステーキナイフを使って缶を開けようとして切り傷を負ったこともあるし、コンロの火をつけてしまうこともあった。

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